第59話 役に立つ
冬が終わる。
少しずつ。
空気が緩む。
雪も減り。
道も戻る。
そして。
春前。
黒田家にも。
小競り合いの話が来た。
大戦ではない。
境の揉め事。
荷。
見張り。
小競り合い。
だが。
人は要る。
そのため。
井上之正へも。
命が出た。
「出ろ」
井上。
少しため息。
冬の間。
ずっと小屋にいた。
子供。
村人。
男達。
何故か。
話を聞きに来る。
最近では。
少し妙な場所になっている。
だが。
武士である以上。
呼ばれれば行く。
そして。
数日後。
井上。
戻って来た。
小屋。
火。
いつもの顔。
子供達。
「あ、井上様だ」
万吉も。
普通にいる。
そして。
井上。
荷を下ろした後。
ぽつりと言った。
「若様」
「冬に話した事、
役に立ちますな」
万吉。
顔を上げる。
「?」
井上。
少し笑う。
「止まるな」
「前だけ見るな」
「勝手に動くな」
「荷を崩すな」
「全部」
「そのまま使いました」
小競り合い。
派手な戦ではない。
だが。
人は動く。
荷は流れる。
そして。
下が止まると。
全部止まる。
井上。
少し遠い目。
「荷運びの者達に言ったら」
「妙に動きが良くなりましてな」
「怒鳴る回数が減りました」
さらに。
少し笑う。
「私が疲れないので、
いい動きができました」
周囲。
少し吹き出す。
井上。
真面目な顔。
「本当に」
「無駄に怒鳴らんで済むと、
かなり違います」
「伝令も流れましたし」
「荷も止まりませんでした」
そして。
ぽつり。
「殿からも、
お褒めをいただきました」
万吉。
普通。
「そうか」
すると井上。
懐から。
少し銭を出した。
「あと」
「少し銭も頂きました」
「若へ、
一部お返しいたします」
万吉。
銭を見る。
「?」
井上。
少し苦笑。
「若の話で」
「私も楽をしましたので」
「その分です」
万吉。
しばらく銭を見る。
そして。
当然のように言った。
「書付小屋に、
筆でも買うか」
子供達。
止まる。
之正も。
少し止まる。
書付。
最近。
帳簿。
荷。
名前。
数。
少しずつ。
文字を使う事が増えていた。
そして。
それを書く子供達も。
増えている。
万吉。
当然のように続ける。
「書けんと、
困るだろ」
その言葉に。
井上は。
少しだけ笑った。
この若は。
やはり。
「流れを止めないための物」
へ。
銭を使うのだった。




