第58話 何を教えてるんだ
冬。
黒田屋敷。
黒田職隆は。
最近。
妙な話を聞いていた。
山裾の小屋。
冬なのに。
人の出入りがある。
しかも。
子供だけではない。
村の男。
若者。
荷運び。
何故か。
集まっているらしい。
その日。
職隆は。
井上之正を呼んだ。
そして。
開口一番。
「お前、
教育どうなってるんだ」
之正。
止まる。
職隆。
続ける。
「冬でも、
小屋に男達の出入りがあるとか」
「なぜだ」
之正。
少し困った顔。
「それが……」
「なぜか」
「私の話を、
聞きに来るので」
職隆。
眉をひそめる。
「……話?」
「何を話してるんだ」
之正。
少し考える。
「ええと……」
「戦で」
「何故、
怒鳴るのか」
「とか」
「そういう話が、
食い付き良くて」
「最近は、
そういう話になってます」
沈黙。
職隆。
止まる。
「……は?」
之正。
少し遠い目。
「若様が」
「兵法はいらんだろ」
「と言いまして」
「なら」
「怒鳴られん動きを教えろ」
「と」
職隆。
額を押さえる。
意味は分かる。
いや。
分かってしまう。
確かに:
荷運び。
足軽。
雑兵。
そういう者なら。
兵法より。
「怒鳴られない動き」
の方が。
先に必要かもしれない。
之正。
さらに続ける。
「意外と」
「皆、
真面目に聞くのです」
「前だけ見るな」
「止まるな」
「荷を崩すな」
「勝手に動くな」
「そういう話を」
職隆。
しばらく黙る。
そして。
ぽつり。
「……なんだその小屋は」
之正。
静かに答えた。
「私も、
最近よく分からなくなっております」
職隆。
苦い顔。
だが。
少し興味も湧いていた。
「それで」
「本当に人が集まるのか?」
之正。
頷く。
「はい」
「特に」
「荷運びの者や、
村の若い者が」
「妙に真剣です」
職隆。
少し考える。
戦国。
怒鳴られる。
殴られる。
失敗すれば。
怪我。
最悪。
死ぬ。
なら。
「どうすれば怒鳴られないか」
は。
確かに。
かなり実用的だ。
之正。
さらに続ける。
「最近は」
「荷を受ける時の声の出し方とか」
「止まる時の合図とか」
「そういう話までしております」
職隆。
思わず少し笑う。
「兵法書ではないな」
之正。
真顔。
「はい」
「完全に現場です」
その後。
少し沈黙。
職隆。
ふと聞いた。
「……万吉は、
何をしている」
之正。
少し考える。
「横で」
「当然の顔をしております」
職隆。
吹き出しかける。
そして。
深く息を吐いた。
「万吉は」
「本当に、
妙な物を作るな……」
之正。
静かに頷く。
「はい」
「しかも本人に、
自覚がありません」




