第55話 冬の間
秋が深まっていた。
山裾。
風が冷たくなる。
村でも。
少しずつ。
冬の話が増えていた。
「今年の冬は、
どうだろうな……」
「薪、
足りるかな」
「去年よりは、
まだましか」
通いの女達も。
作業しながら話している。
「今年は」
「少し塩残せそうだ」
「縄仕事あったから、
米減らさず済んだし」
さらに別の女。
少し笑う。
「ここの作業で、
少し銭の蓄えあるし」
「今年は、
少し楽だろうね」
周囲も。
小さく頷く。
戦国の冬。
怖い。
食。
寒さ。
病。
毎年。
ぎりぎり。
だが今年は。
少しだけ違う。
小屋。
仕事。
草鞋。
塩。
そして。
少しの銭。
全部が。
冬を越える余裕になっていた。
そんな中。
万吉。
いつものように確認する。
「冬の間も、
作業場はやるんだろ?」
組紐の女。
頷く。
「ええ」
「雪でも降らなきゃ」
「通うつもりです」
万吉。
頷く。
そして次。
「川さらい、
どうするんだ」
井上之正。
少し苦い顔。
「流石に」
「冬に水は触りたくないと、
集まりません」
「なので」
「なしですね」
万吉。
少し考える。
「ふーん」
静かになる。
之正。
少し嫌な予感。
万吉。
ぽつり。
「じゃ、
井上」
「役空くな」
之正。
止まる。
万吉。
当然のように続ける。
「子供の面倒見ろ」
「冬の間」
「字」
「礼」
「あと」
「武士の知識、
教えてやってくれ」
之正。
少し止まる。
「……武士の知識?」
万吉。
頷く。
「知らんと」
「あとで困る」
周囲。
少し静かになる。
子供達。
今は:
荷運び。
使い走り。
素材集め。
そういう役だ。
だが万吉は。
その先を見ていた。
之正。
少し周囲を見る。
親を亡くした子。
村の子。
半端者。
本来なら。
武士の知識など。
教わる立場ではない。
だが。
万吉は。
当然のように:
「教えろ」
と言った。
しかも。
そこに。
身分の壁を。
ほとんど感じていない。
之正。
少しため息。
「……私は、
何役なんでしょうな」
周囲。
少し笑う。
流れ商人。
苦笑。
「川掘って」
「帳面見て」
「子供教えるんですか」
組紐の女も。
笑いながら言う。
「もう半分、
小屋の頭ですよね」
之正。
遠い目。
「守役とは、
一体……」
だが。
その視線の先。
子供達は。
少し嬉しそうだった。
「字、
ちゃんと習えるのか?」
「武士の話って、
なんだろうな」
小さくざわついている。
万吉。
それを見ながら。
当然のように言った。
「流れるなら」
「知ってた方がいい」
悪気。
全く無い。
だが。
誰も気付いていなかった。
万吉は。
少しずつ:
「黒田の人」
を増やし始めていた。




