第51話
市が終わった。
夕方。
人が減る。
声が減る。
片付け。
荷運び。
縄。
草鞋。
修理した鍋。
売れた物。
残った物。
全部まとめ。
山裾へ戻す。
その夜。
小屋。
若い僧が。
帳簿を広げていた。
灯り。
墨。
紙。
売れた数。
残った物。
交換した塩。
税として引かれた分。
全部。
一つずつ確認していく。
そして最後。
顔を上げた。
「……思ったより、
残りました」
万吉。
帳簿を見る。
二百文ほど。
大金ではない。
だが。
小屋が回り。
人へ対価を払い。
税も引かれた上で。
ちゃんと残った。
万吉。
少し考える。
「ふん」
「止まってないな」
流れ商人。
苦笑する。
「まあ、
初めてにしては上等でしょう」
「普通は、
最初もっと崩れます」
組紐の女も。
少し嬉しそうだった。
「ちゃんと回ったねぇ」
その時。
万吉。
何か思い出したように言う。
「御着の市、
明日だったな」
之正。
少し嫌な予感。
万吉。
普通に続ける。
「なんか、
買ってこようかな」
組紐の女。
少し笑う。
「若様も、
欲しい物とかあるんですね」
万吉。
頷く。
「手に塗る油」
沈黙。
「……油?」
万吉。
縄を編んでいた女衆の手を見る。
割れ。
傷。
荒れ。
「あかぎれ」
「割れてる」
「痛いだろ」
組紐の女。
少し止まる。
万吉。
当然のように続ける。
「手、
動かなくなる」
「流れ止まる」
悪気。
ゼロ。
だが。
その場にいた女達は。
静かになった。
最近。
縄を編み。
草鞋を作り。
働き続けていた。
冬も近い。
水。
縄。
藁。
手は荒れる。
痛い。
だが。
仕方ないものだと思っていた。
その手を。
若様は見ていた。
組紐の女。
自分の手を見る。
荒れている。
そして。
少し小さな声で言った。
「若様」
「私らの手、
見てたんですね……」
万吉。
きょとん。
「?」
「痛いと、
遅くなるだろ」
その瞬間。
周囲の女達。
何故か少し感動していた。
万吉だけ。
「なんで?」
という顔をしていた。
その横で。
流れ商人が苦笑する。
「若様」
「普通は、
そういう所まで見ませんよ」
万吉。
少し考える。
「でも」
「止まる」
「人も」
静かになる。
若い僧。
帳簿を閉じながら思う。
この子は。
物だけではない。
人の疲れも。
痛みも。
流れの一部として見ている。
だから。
気付く。
そして。
当然のように。
直そうとする。
万吉は。
もう。
人を使う側の目で。
周囲を見始めていた。




