第47話 前例がない
見世の準備が進んでいた。
山裾の小屋。
並べられていく品。
縄。
草鞋。
紐。
そして。
修理した鍋。
銅の金具。
少しずつ。
「売る物」が増えていた。
場所は姫路城下の市。
端ではある。
だが。
ちゃんとした見世だった。
だから小屋の者達も。
どこか浮ついている。
「本当に店出すんだな……」
「なんか商人みたいだ」
笑い声。
そんな中。
万吉はいつものように品を見ていた。
「縄」
「揃ってるか?」
一本持つ。
長さ。
太さ。
編み。
確認。
「鍋、
磨いたか?」
銅細工の男が頷く。
「草鞋まとめろ」
子供達が慌てて束ね始める。
その後。
万吉は流れ商人へ向き直った。
「役人に、
聞いてみたか?」
税の話。
修理。
売り上げ。
見世。
どう扱われるのか。
まだ曖昧だった。
流れ商人は少し苦笑した。
「聞いて来ました」
「ただ……」
言葉を選ぶ。
「向こうも、
かなり困ってました」
万吉。
止まる。
流れ商人は続けた。
「相手方からすると」
「姫路城代が許可した見世」
「しかも黒田の嫡男」
「なんですよ」
横で。
井上之正が遠い目をする。
確かに。
扱いづらい。
かなり。
さらに流れ商人。
肩をすくめた。
「あと」
「前例が無いそうです」
沈黙。
縄。
草鞋。
修理した鍋。
それを。
半分仕事場みたいな連中が。
見世で売る。
しかも。
黒田家嫡男主導。
役人側も。
どう扱えばいいのか分からない。
流れ商人は続けた。
「城代様からは」
「税は取れ」
「と言われているそうです」
「ですが」
「修理代を、
どう扱うか難しいと」
万吉。
少し考える。
「修理は、
売ってない」
流れ商人は頷いた。
「ええ」
「なので」
「修理代については、
かなり低くしております」
「との事でした」
之正。
思わず少し笑いそうになる。
役人達の顔が浮かぶ。
税は取れ。
だが前例が無い。
しかも嫡男案件。
結果。
「……とりあえず低めで」
そんな空気が見えるようだった。
万吉は。
しばらく考え込んだ。
そして。
ぽつりと言う。
「税って、
難しいな」
その言葉に。
流れ商人も。
之正も。
妙に納得してしまった。
すると。
流れ商人が少し笑う。
「若様」
「普通は」
「税をどう誤魔化すか」
「考えるものなんですがね」
万吉。
きょとん。
「なんで?」
流れ商人。
苦笑する。
「取られたくないからですよ」
万吉。
少し考える。
「でも」
「流れがあるなら、
少し取るのは分かる」
「道も使うし」
「市も使う」
「守ってもらってる」
「だから、
取るのは分かる」
少し間。
「でも」
「取りすぎると、
止まる」
静かになる。
流れ商人。
少し目を細めた。
之正も。
黙って万吉を見る。
この子は。
税を。
奪われるものではなく。
流れを調整するものとして。
見始めていた。




