第39話 「本当に回ってる?」 あるいは 「揃い始める」
山裾の小屋。
万吉は。
戻って来て早々。
周囲を見回していた。
縄。
俵。
荷。
人。
確かに。
動いている。
だが。
万吉は。
そこで終わらなかった。
しばらく見た後。
若い僧へ向き直る。
「本当に、
回ってる?」
若い僧。
少し止まる。
万吉は続ける。
「銭」
「物の量は?」
「売れてる?」
横で聞いていた。
井上之正。
少し目を細める。
確認している。
感覚ではなく。
ちゃんと。
若い僧。
慌てて帳面を開く。
「ええと……」
「縄は、
前より増えました」
「草鞋も、
市で動いてます」
「塩への交換量も、
増えてます」
万吉は。
黙って聞いている。
次。
組紐の女。
「女達も、
前より来てます」
「通いが増えました」
「あと」
少し笑う。
「勝手に教え始めてます」
万吉。
少し嬉しそう。
次。
流れ商人。
「荷運びの仕事も増えました」
「川さらいへ行く荷も、
ここから回してます」
「あと」
帳面を軽く叩く。
「銭」
「今のところ、
減ってません」
万吉。
止まる。
「増えてる?」
流れ商人。
苦笑。
「少しだけ」
「ちゃんと回ってますよ」
そして。
少し考えた後。
続けた。
「最近は少し」
「縄の質と長さが、
揃い出してきてます」
万吉。
顔を上げる。
流れ商人。
縄を一本持つ。
「前までは」
「長さも太さも、
ばらばらでした」
「でも最近は」
「同じような物が、
増えてます」
組紐の女。
少し照れた顔。
「来る人増えたんで」
「編み方、
合わせるようにしたんです」
流れ商人。
頷く。
「売る側としては、
かなり助かります」
「揃ってると、
扱いやすい」
万吉。
縄を見る。
長さ。
太さ。
編み。
確かに。
前より揃っている。
そして。
ぽつり。
「……流れやすい」
流れ商人。
少し笑った。
「はい」
「物も、
揃うと流れやすいんです」
その瞬間。
万吉。
少しだけ嬉しそうだった。
そして横で。
井上之正は静かに思う。
最初は。
ただの泥遊びだった。
水たまり。
ぬかるみ。
流れ。
だが今。
万吉が見ているのは。
人。
物。
銭。
仕事。
全部の流れだった。
しかも。
それが少しずつ。
噛み合い始めている。




