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第38話 「小屋へ行こう」 あるいは 「解禁」



数日後。


井上之正が。


ようやく言った。


「若様」


「外出禁止、

解かれました」


万吉が止まる。


そして。


「よし」


即答だった。


之正は少し笑う。


「やはり、

最初に行くのは川ですか?」


万吉は少し考える。


「いや」


「まず、

小屋」


之正は少し驚いた。


川ではない。


万吉は普通に続ける。


「どうなってるか、

見たい」


「流れ、

止まってないかな」


翌朝。


万吉。


珍しく少し早起き。


身支度。


かなり速い。


之正は苦笑した。


「そんな急がなくても、

小屋は逃げません」


万吉は普通に答える。


「でも、

見たい」


そして。


外へ出る。


久しぶりの外。


風。


土。


湿った匂い。


万吉は少し嬉しそうだった。


道を進む。


途中。


以前直した道。


まだ崩れていない。


万吉は少し満足そうに見る。


そして。


山裾の小屋。


近付く。


すると。


聞こえる。


人の声。


「そっち運べ!」


「縄足りねえ!」


「帳面こっち!」


動いている。


小屋。


完全には止まっていなかった。


万吉は少し目を丸くする。


そして。


ぽつり。


「……動いてる」


之正は静かに頷く。


「若様が寝込んでいる間も」


「皆、

ちゃんとやっておりました」


万吉はしばらく小屋を見る。


人。


物。


声。


流れている。


自分がいなくても。


その時。


小屋の者達も。


万吉へ気付く。


「あ」


「若様!」


「治ったんですか!」


皆。


少し嬉しそうだった。


万吉はそれを見て。


少しだけ笑う。


そして。


小屋の中を見回す。


縄。


俵。


帳面。


置き場。


人の流れ。


しばらく黙って見た後。


万吉。


若い僧へ聞く。


「で」


「回ってる?」


若い僧は少し笑った。


「ええ」


「ちゃんと回っております」


流れ商人も肩を竦める。


「若様がいなくても、

何とかなるもんですな」


組紐の女も頷く。


「女達も普通に来てますよ」


万吉は。


しばらく黙って聞いていた。


そして。


少し嬉しそうに。


「そうか」


と言った。


その顔を見て。


之正は静かに思う。


万吉が見たかったのは。


自分が必要とされているかではない。


「流れが止まっていないか」


それだけだったのだ。


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