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第31話 「黒田家嫡男の一日」 あるいは「なんか知らんが」


万吉は。


別に。


川だけ見ている訳ではない。


黒田家嫡男。


当然。


やる事は多い。


朝。


起きる。


身支度。


挨拶。


まだ眠そうな顔で。


それでも。


きちんと座る。


その後。


家臣の子供達と共に。


学びの時間。


板敷きの部屋。


並ぶ子供達。


書を読む。


字を書く。


計算を習う。


さらに。


礼儀作法。


座り方。


歩き方。


言葉遣い。


武の鍛錬もある。


木刀。


姿勢。


足運び。


当然。


子供達は苦戦する。


「いてっ!」


「むずかしい!」


「足こんがらがる!」


騒がしい。


その中。


万吉は妙にそつなくこなしていた。


字。


普通に書く。


礼。


普通にやる。


姿勢。


崩れない。


武錬も。


変に飲み込みが早い。


井上之正は。


それを見ながら。


少し不思議に思っていた。


万吉は。


集中力に偏りがある。


川。


道。


流れ。


そういうものには異常。


だが逆に。


興味の無い事は。


全く駄目そうに見える。


なのに。


やれば出来る。


しかも。


何故か。


周囲を見る。


「あいつ、

字きたないな」


突然言う。


言われた子供。


びくりとする。


万吉は続ける。


「なんか、

ぐちゃってしてる」


別の日。


礼の時間。


「あ」


「姿勢わるいな、

こいつ」


「斜めになってる」


言われた側。


少し傷付く。


「なっ!」


「若様に言われた!」


だが困る事に。


万吉の指摘。


妙に合っていた。


字が雑な者。


本当に雑。


姿勢が崩れている者。


実際に崩れている。


さらに武錬。


木刀を振る時間。


万吉。


じっと他の子を見る。


そして。


首を傾げる。


「なんか、

しらんが変だな」


之正が聞き返す。


「何がです?」


万吉。


少し考える。


うまく言葉に出来ない。


「うーん……」


「足、

ぐちゃってなる」


実際。


その子は踏み込みの時。


足運びが崩れていた。


之正は静かに思う。


(この子)


(“流れ”だけではないな……)


万吉は。


人も見ていた。


動き。


癖。


姿勢。


言葉。


何が変で。


何が崩れていて。


何が足りないか。


本人もよく分からないまま。


自然に見抜いていた。


そして万吉本人は。


それが特別だと思っていない。


ただ。


「なんか変」


だから言っているだけだった。


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