表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/151

第30話 「どういう教育だ」 あるいは 「最後に脅す」



万吉が去った後。


部屋には。


重い沈黙が残っていた。


黒田職隆。


腕を組み。


深く息を吐く。


その前。


正座。


井上之正。


非常に居心地が悪い。


職隆は静かに口を開いた。


「之正」


「お前」


「どういう教育をしとるんだ」


之正は少し俯く。


「申し訳ございません」


職隆は額を押さえた。


「脇差を売るなど」


「どこで覚えた」


之正は即答した。


「一度は止めました」


職隆が止まる。


之正は疲れた顔のまま続けた。


「ですが若様」


「“では刃だけ売るか”」


「などと言い始めまして」


職隆は吹き出しかけた。


だが。


何とか堪える。


肩が少し震えている。


之正はさらに続けた。


「その後」


「今度は私へ」


「銭をねだられました」


「当然、

断りました」


「その結果が――」


静かに。


部屋の隅へ置かれた銭袋を見る。


「これでございます」


職隆はしばらく黙った。


そして。


ぽつりと言う。


「……しかし」


「万吉が」


「理詰めをして」


「最後に脅すような交渉をしてくるとは思わなんだ」


之正は静かに頷いた。


職隆は遠い目になる。


「初めはな」


「まあ、

分かる」


「川を直している」


「人を動かしている」


「だから銭が必要」


「そこまでは良い」


確かに理屈は通っている。


実際。


結果も出ている。


職隆自身。


そこは認めていた。


「最後は」


少し苦笑する。


「まあ、

ねだるぐらいだろうと思っていた」


之正は真顔。


「私もです」


沈黙。


二人。


同時に思い返す。


「脇差を売ります」


職隆は顔を覆った。


之正は静かに天を仰ぐ。


しばらくして。


職隆がぽつりと言う。


「とんでもないな」


之正は深く頷いた。


「はい」


「本当に」


だが。


二人とも。


少しだけ理解していた。


万吉は。


銭が欲しかった訳ではない。


流れを止めたくなかった。


ただそれだけなのだ。


だから。


必要なら。


自分の脇差すら流そうとした。


そこが。


何より恐ろしかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ