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第29話 「五百文」 あるいは 「理詰めからの脅し」



結局。


黒田職隆は。


銭を渡した。


五百文。


決して大金ではない。


だが。


子供へ渡す額としては、

かなり多い。


理由。


半分は理屈だった。


万吉は。


川を直している。


被害を減らしている。


人を集めている。


しかも。


ちゃんと結果が出ている。


村人も動いている。


道も残った。


流れも変わった。


職隆自身。


それは理解していた。


そして。


もう半分。


「脇差を売る」


これである。


職隆は静かに思った。


(この子は)


(本当にやる)


冗談ではない。


脅しでもない。


必要なら。


本当に売る。


だから。


先に銭を渡した。


その横で。


井上之正は。


かなり疲れた顔をしていた。


理詰め。


からの。


脅し。


守役人生で。


そんな交渉へ立ち会うとは思わなかった。


しかも相手。


幼子である。


一方。


万吉は非常に上機嫌だった。


銭袋を持ち。


普通に歩いている。


ちゃり。


ちゃり。


音が鳴る。


「これで」


「塩が買えますね」


嬉しそうだった。


之正は静かに思う。


(目的が、

完全にそちらなのだな……)


銭そのものではない。


流す為の物。


塩。


道具。


褒美。


全部。


流れを回す為。


そして二人。


山裾の小屋へ戻る。


小屋。


若い僧。


組紐の女。


流れ商人。


三人は戻って来た万吉を見る。


そして。


その手にある銭袋を見る。


沈黙。


流れ商人がぽつりと言った。


「……本当に」


「銭を手に入れて帰って来た……」


若い僧は静かに之正を見る。


その疲れ切った顔。


全てを察した。


組紐の女は。


少し引いた顔だった。


「井上様……」


「苦労されてるんですね……」


之正は何も言わない。


言い返せなかった。


むしろ。


最近はもう。


諦め始めている。


その横で。


万吉は銭袋を開き。


中を確認していた。


真剣な顔。


「これなら」


「塩と縄、

もっと増やせる」


もう。


次の流れを考えている。


三人は。


その姿を見る。


そして。


同時に。


なんとなく思った。


(これ)


(そのうち)


(私達にも降りかかるのでは……?)


その予感は。


多分。


正しい。


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