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第27話 「脇差」 あるいは 「お父上なら」



山裾の小屋。


人が増えていた。


縄を編む者。


荷を運ぶ者。


帳面を書く者。


川へ向かう者。


気付けば。


もう小さな仕事場になっている。


その日も。


売り上げの話になっていた。


塩。


米。


縄。


草鞋。


物は流れている。


だが。


人が増えれば。


当然。


足りない物も増える。


「若様」


流れ商人が、

少し困った顔をした。


「塩の交換量が、

少し足りません」


「もう少し元手があれば」


「回しやすいのですが……」


万吉は少し考える。


そして。


当然のように。


腰へ手を伸ばした。


すらり。


脇差。


それを。


流れ商人へ差し出す。


「これ持って」


「売りに行け」


沈黙。


流れ商人が固まる。


若い僧も。


組紐の女も。


動きを止めた。


そして。


横で聞いていた。


井上之正が。


即座に反応する。


「それは駄目です」


万吉はきょとんとした。


「なんで?」


之正は脇差を指差す。


「若様」


「それ」


「黒田の家紋が入っております」


万吉は脇差を見る。


確かに。


黒田の家紋。


しっかり刻まれていた。


之正は真顔だった。


「そんな物を市へ流したら」


「殿が倒れます」


流れ商人も必死に頷く。


「はい」


「私も流石に困ります」


万吉は少し考えた。


「じゃあ、

刃だけ売るか?」


之正は即答した。


「駄目です」


間髪入れなかった。


万吉はまた考える。


「じゃあ」


「井上、

銭ちょうだい」


之正は真顔。


「駄目です」


沈黙。


万吉は少しだけ考え込む。


「……だめか」


周囲が妙に静かだった。


流れ商人は口元を押さえている。


若い僧は下を向いて肩を震わせている。


組紐の女は、

完全に顔を逸らしていた。


そして。


万吉。


ぱっと顔を上げる。


「父上なら?」


之正は静かに目を閉じた。


来た。


その場にいた全員。


何故か少し視線を逸らす。


之正はゆっくり空を仰いだ。


(結局)


(私が説明するのか……)


しかも今回は。


「若様が脇差を売ろうとしました」


から始めなければならない。


かなり嫌だった。


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