第25話「書写山」 あるいは 「飯が食えるなら」
ある日。
万吉が突然言った。
「井上」
「書写に行こう」
書寫山圓教寺。
播磨でも有名な寺。
学問。
修行。
僧。
職人。
様々な者が集まる場所だった。
井上之正は少し驚く。
「何故また突然……」
万吉は当然のように答えた。
「たりない」
「今のままだと、
たりない」
之正は嫌な予感がした。
そして。
その予感は当たった。
書写へ着いた万吉は。
寺を見て回る。
人を見る。
作業を見る。
荷を見る。
話を聞く。
まるで。
何かを探しているようだった。
その中で。
何人かへ妙に興味を示した。
一人目。
若い僧。
字が綺麗。
計算も出来る。
だが。
寺ではそこまで重用されていない。
真面目だが、
少し融通が利かない。
器用貧乏。
そんな男だった。
二人目。
女。
縄や紐を見る目が良い。
編み方も丁寧。
だが。
組紐としてはまだ未熟。
本人も。
「出来るかもしれない」
程度の腕。
三人目。
流れて来た商人崩れ。
荷と道に詳しい。
どこへ何を流せば良いか、
感覚で分かる。
だが。
大店へ戻れる程ではない。
何処にも居場所を作れなかった男。
共通点。
「中途半端」
一流ではない。
だが。
何か出来る。
万吉はその三人を見ながら。
静かに言った。
「来てほしい」
之正は頭を抱えそうになった。
また始まった。
人を拾い始めた。
しかも万吉。
当然のように続ける。
「仕事ある」
「飯も出る」
「寝る場所もある」
三人は困惑した。
あまりにも現実的だった。
夢を語らない。
大義を語らない。
ただ。
生きられる条件を並べている。
若い僧が少し苦笑する。
「……黒田の若様は」
「人を誘うのが、
妙に上手いですね」
万吉は意味が分かっていない顔だった。
ただ。
必要だから呼んでいるだけ。
その時。
組紐の女が。
少し考えた後。
ぽつりと言った。
「飯が食えて」
「雨風に晒されないなら」
「いいですよ」
沈黙。
万吉の顔が、
ぱっと明るくなる。
「ほんとか!」
女は少し笑った。
「ええ」
「今より悪くなる事は、
無さそうですし」
その言葉に。
流れ商人も苦笑する。
「……確かにな」
若い僧も静かに頷いた。
之正はその光景を見る。
万吉は。
大義を語らない。
夢も語らない。
天下も語らない。
ただ。
「飯が食える」
「雨風を凌げる」
そこから始めている。
だが。
だからこそ。
人が付いて来るのかもしれなかった。
と思うのであった井上は




