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第22話 「市」 あるいは 井上が証明する」



翌日。


井上之正は。


縄の束を大量に抱えていた。


両腕いっぱい。


かなり重い。


そして当然。


万吉に持たされた。


之正は静かに言う。


「若様」


「何故、

私が全部……」


万吉は当然の顔だった。


「いのうえ、

おとな」


反論出来ない。


之正は遠い目をした。


(最近、

本当に扱いが雑になっている気がする……)


二人は播磨の市へ向かう。


人。


荷。


声。


匂い。


活気が渦巻いていた。


商人達が並ぶ。


塩。


布。


干物。


木材。


鍋。


草履。


様々な品が並んでいる。


万吉は、

きょろきょろ見ながら歩いていた。


だが。


遊んでいる訳ではない。


何を売っているか。


何が多いか。


人がどこへ集まっているか。


妙によく見ている。


やがて。


一人の商人の前で止まった。


どん。


縄の束が置かれる。


万吉が言う。


「なわ」


「かってくれんか」


商人が少し驚いた。


「縄?」


万吉は頷く。


「こうかんでもいい」


「できれば」


「ぜにか、

しお」


商人は縄を手に取った。


触る。


引く。


編みを見る。


そして少し驚く。


思ったより。


かなりしっかりしている。


「……ありますよ」


「結構ちゃんとしてる」


そこで。


ふと商人の視線が、

之正へ向いた。


「あんた」


「井上様では?」


之正は少し気まずそうだった。


「……まあ」


最近。


市川で泥だらけになっている姿を、

結構見られている。


商人はさらに万吉を見る。


そして。


少し目を見開いた。


「では」


「こちらの方は――」


少し間。


「黒田の若様ですか?」


万吉はこくりと頷いた。


すると商人。


急に真顔になる。


「若様」


「こちらの縄ですが……」


少し声を潜めた。


「お城から持ち出したりなどは、

しておりませんよね?」


沈黙。


万吉はきょとんとしている。


意味が分かっていない顔だった。


之正は少しだけ吹き出しかける。


だが。


すぐ真顔へ戻した。


そして静かに言う。


「大丈夫だ」


「この井上が証明する」


商人が姿勢を正した。


之正は縄を指差す。


「若が」


「村で作らせた物だ」


「そなたが心配するような事にはならぬ」


商人は少し安心した顔になった。


「……失礼しました」


之正は頷く。


その横で。


万吉は当然のように続けた。


「かわで、

つかう」


「いっぱい、

いる」


商人は少し笑う。


「ああ、

市川の話ですか」


「噂になってますよ」


「若様が川を弄ってるって」


万吉は頷いた。


「かわ、

あばれる」


「だから、

なおす」


商人は笑いながら、

塩袋を出した。


「なるほど」


「では、

こちらも少し安くしましょう」


之正は横で思った。


(普通)


(守役とは、

若の悪戯を隠す役ではないのだが……)


だが。


不思議と嫌ではなかった。


市の人間まで。


もう万吉のやっている事を知っている。


そして。


少しずつ。


流れが繋がり始めていた。


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