表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/150

第21話 「褒美」 あるいは 「休め」



夕暮れ。


市川。


赤くなった空の下。


今日の作業も終わろうとしていた。


川浚い。


土運び。


縄編み。


木運び。


皆。


疲れていた。


村人達も。


女達も。


子供達も。


泥だらけ。


手は荒れ。


肩で息をしている。


「ふう……」


「今日は掘ったなぁ」


「腰が死ぬ……」


川沿いには、

疲れた空気が流れていた。


その時。


とことこと。


万吉が前へ出て来る。


後ろには荷車。


之正はそれを見て、

少し嫌な予感がした。


(また勝手に蔵を……?)


だが。


今日は少し違った。


万吉は皆の前へ立つ。


小さい。


だが。


妙に堂々としていた。


そして頷く。


「うむ」


「きょうは、

ごくろうだった」


村人達が少しざわつく。


「はは」


「若様、

殿様みてえだな」


笑いが漏れる。


だが。


誰も馬鹿にはしていない。


万吉はさらに続けた。


「つくったもの」


「こちらに」


編まれた縄。


束。


運ばれて来る。


万吉は真剣な顔で確認した。


「うん」


ちゃんと出来ているか。


数は足りているか。


小さな目で、

じっと見ている。


そして。


後ろの荷車を叩いた。


「ほうびを、

わたす」


中には。


米。


村人達が驚く。


「また米か!」


「若様、

本当に出すなぁ!」


笑い声が起きる。


万吉は当然のように言った。


「がんばったから、

やる」


「ただでは、

やらない」


之正は少し頭を抱えたくなった。


完全に。


人を使う側の理屈を覚えていた。


しかも自然に。


働いた。


だから払う。


働いてないなら払わない。


妙に筋が通っている。


村人達も嬉しそうだった。


働く。


褒美が出る。


また働く。


流れが出来ている。


しかも。


皆が自分から動いている。


万吉はしばらく皆を見回した。


そして最後。


ぽつりと言う。


「あと」


村人達が顔を上げる。


「明日は」


「かわさらいも」


「ひもあみも」


少し間。


「なしだ」


一瞬。


皆が止まった。


そして。


爆発したように笑い声が上がる。


「おおー!!」


「休みだ!」


「ありがてえ!」


「若様最高だ!」


皆、

一気に明るくなる。


之正は少し驚いた。


万吉は当然のように続ける。


「つかれると、

おそい」


「ちゃんと、

やすめ」


村人達がまた笑う。


「分かってるなぁ若様!」


「うちの親父より優しい!」


「だからまた働ける!」


万吉は頷いていた。


まるで。


それが当たり前だと言うように。


之正はその横顔を見る。


そして静かに思った。


(この子は)


(どこでこんな事を覚えるのだ……)


武士とも違う。


商人とも違う。


だが。


人を動かす流れを。


自然に作っている。


しかも。


本人は多分。


全く無自覚だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ