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第19話「増えていく」 あるいは 「まだやるのか」



雨は。


何日か続いた。


降り。


止み。


また降る。


空はずっと重く。


市川も、

唸るような音を立てて流れていた。


そしてようやく。


空が晴れる。


雲の切れ間から、

陽が差した。


湿った空気。


増えた川。


削れた岸。


流れて来た土。


その日。


万吉は当然のように言った。


「まず」


「こんかい、

ながれてきたぶん」


小さな指で、

川沿いを示す。


「さらえ」


井上之正は静かに目を閉じた。


始まった。


また始まった。


だが。


前ほどの絶望は無かった。


理由は単純。


人が来る。


もう。


黒田領の村人達も慣れていた。


「若様がまた川やるらしいぞ」


その一言で。


人が集まる。


鍬を持って。


縄を持って。


桶を持って。


勝手に集まって来る。


しかも最近は。


村同士で話している。


「去年より被害少なかった」


「あの道、

本当に残った」


「水の引きも早かった」


皆、

実感している。


だから動く。


之正は静かに思った。


(私はもう)


(指揮をするだけで良い……)


もちろん大変だ。


人を動かし。


場所を決め。


流れを見て。


作業を回す。


だが。


以前のような。


「全部自分で掘る絶望」


それはかなり薄れていた。


そして万吉。


川沿いを歩き始める。


市川。


播磨を流れる大河。


その流れを。


じっと見ている。


岸を見る。


溜まった土を見る。


流れの速さを見る。


突然。


万吉が止まった。


「ここ」


指差す。


「もうすぐ、

あふれるぞ」


之正は周囲を見る。


確かに。


少し浅い。


流れも偏っている。


大雨が続けば、

危ないかもしれない。


万吉はさらに歩く。


また止まる。


「ここも、

さらう」


さらに。


「ここ、

よこけずれる」


「ここ、

つつみひくい」


増える。


場所が。


どんどん。


之正は遠い目になった。


(……まだやるのか)


だが万吉は真剣だった。


去年。


川は暴れた。


今年も、

まだ危ない。


なら。


やるしかない。


そういう顔だった。


周囲の村人達も。


もう普通に動き始めている。


「こっち掘るぞー!」


「土運べ!」


「石足りねえ!」


「若様の言った場所だ!」


誰かが叫び。


誰かが動く。


自然に流れが出来ていく。


之正はその光景を見る。


気付けば。


万吉の言葉一つで。


人が動くようになっていた。


本人は。


全く気付いていない。


ただ。


「ここ危ない」


「ここ直す」


そう言っているだけだ。


だが。


皆がそれを聞き。


動き。


流れを変え始めていた。


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