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第12話 「川だな」 あるいは 「流れの根本」



雨が続いていた。


播磨の空は重く。


山の方は、

ずっと霞んでいる。


そして数日後。


市川が増えた。


黒田屋敷にも、

朝から話が入って来る。


「川がかなり増しております」


「下流の畑が浸かりかけたとか」


「橋も危ういそうです」


家人達が慌ただしく動く。


雨は。


道を悪くするだけではない。


川そのものを変える。


万吉も、

その話を聞いていた。


すると。


すぐ言った。


「かわ、

みる」


井上之正は嫌な顔をした。


「増水しております」


「危のうございます」


だが万吉は譲らない。


「みる」


結局。


供を連れ。


川へ向かう事になった。


市川。


播磨を流れる大河。


山から水を集め。


平野を抜け。


海へ向かう流れ。


今日は、

その姿がまるで違った。


ごうごうと。


濁った水が暴れている。


木が流れる。


枝が流れる。


土色の水が、

凄まじい勢いで押し寄せていた。


川沿いの者達も、

不安そうな顔をしている。


「また増えたぞ……」


「堤は大丈夫か」


「畑がやられる」


万吉は、

前へ出る。


之正が慌てて肩を掴む。


「危のうございます」


だが万吉は、

川を見ていた。


ずっと。


流れを。


暴れる水を。


今まで万吉が見ていたのは。


水たまり。


ぬかるみ。


止まる荷車。


局所だった。


小さな流れ。


小さな問題。


だが今。


目の前にあるのは違う。


この川が暴れれば。


道も。


村も。


畑も。


全部壊れる。


万吉は黙って見ていた。


どこから流れて来るのか。


どう曲がるのか。


どこへ溢れそうなのか。


その時。


上流から、

さらに濁った水が押し寄せた。


ごうっ――


川幅いっぱいに広がる。


周囲がざわめく。


「山でまた降ったか!」


「まだ増えるぞ!」


之正も川を見る。


確かに恐ろしい。


人の力など、

簡単に押し流しそうな流れ。


だが。


万吉は怖がっていなかった。


真剣な顔で。


ただ見ている。


やがて。


ぽつりと呟いた。


「……川だな」


之正が視線を向ける。


万吉は、

濁流を見たまま続けた。


「問題は」


風が吹く。


濁った水が、

低い音を立てて流れていく。


之正は静かに空を見た。


(なんか)


(とんでもない事を)


(やらされそうな気がする……)


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