第11話「守役の仕事」 あるいは「人足扱い」
それからというもの。
万吉は。
ぬかるみを見つけては止まるようになった。
道の途中。
車輪の跡。
水の溜まった窪み。
崩れた土。
見つける度。
ぴたりと足を止める。
そして。
当然のように言う。
「なおそう」
井上之正は思う。
――また始まった。
最初は。
一度きりと思っていた。
幼子の遊び。
そういうものだと。
だが違った。
雨。
ぬかるみ。
止まる荷車。
それを見ると万吉は、
必ず言う。
「ここ、
たまる」
「つくる」
そして始まる。
例の道作りである。
浅く掘る。
石を入れる。
木を渡す。
土を盛る。
水を逃がす。
最初。
家人達も半信半疑だった。
だが。
妙に効果がある。
雨の後でも。
前より沈まない。
荷車が止まりにくい。
水がちゃんと流れる。
実際に通りやすいのだ。
すると万吉。
嬉しそうに笑う。
「たまらない!」
その顔を見ると。
結局。
皆やる。
「若様、
こっちはどうします」
「石足りませぬ」
「水こっちへ逃げてます」
気付けば。
家人達まで慣れていた。
そして。
黒田領内の一部。
妙にぬかるみが少なくなっていた。
道が違う。
歩きやすい。
荷が通りやすい。
村人達も気付き始める。
「最近、
通りやすいな」
「雨の後でも沈まねえ」
「黒田の若様が、
なんかやってるらしいぞ」
噂は広がった。
だが。
内容が酷い。
「若様の守役が」
「道直して回ってる」
「毎日土運んでるらしい」
「もう人足じゃねえか」
之正はそれを聞き。
少し遠い目になった。
本来。
守役とは名誉ある役目である。
若君へ。
学を教え。
礼を教え。
武士として育てる。
そういう役目だ。
なのに最近。
自分がやっている事は。
土運び。
水抜き。
道普請。
ほぼ人足だった。
之正は静かに思う。
(何故こうなった)
少し恥ずかしい。
かなり恥ずかしい。
だが。
同時に変化もあった。
村人達が。
之正を見ると、
頭を下げるのだ。
「ありがとうございます」
「荷が止まらなくなりました」
「前よりずっと楽です」
年寄りなど。
深々と礼をする。
之正は困った。
自分が褒められる事ではない。
やらされているだけである。
視線の先。
万吉は今日も、
地面を見ていた。
「ここ、
まだたまる」
小さな指で、
道の窪みを示している。
之正は静かに空を見た。
曇り空。
湿った風。
(また土を掘るのか……)
だが。
以前ほど嫌ではなかった。
少しずつ。
人が通りやすくなる。
荷が流れる。
道が変わる。
そして万吉は。
それを見ると。
本当に嬉しそうに笑うのだ。
まるで。
止まっていたものが動き出すのを。
誰より喜んでいるように。




