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第10話 「作る!」 あるいは 「たまらない道」


翌日。


黒田屋敷。


朝から井上之正は、

少し疲れた顔で歩いていた。


手には一枚の紙。


万吉が描いた、

例の「道」である。


ぐにゃぐにゃの線。


棒。


妙な山。


どう見ても落書き。


だが。


今日はこれを元に、

実際に道を作る事になっていた。


之正は静かに思う。


(何故こうなった)


廊下を抜け。


庭へ出る。


万吉は今日も、

地面を見ていた。


しゃがみ込み。


枝で土をつついている。


之正は近付き、

その横へしゃがんだ。


「万吉様」


万吉が顔を上げる。


「ん?」


之正は少し間を置いて言った。


「殿が」


「この紙の道」


「作って良いと仰せです」


一瞬。


万吉が止まった。


そして。


目を丸くする。


「ほんと?」


「はい」


「父上が?」


「はい」


次の瞬間。


万吉の顔が、

ぱっと明るくなった。


「つくる!」


勢いよく立ち上がる。


「つくりましょ!」


その声に。


周囲の家人達が嫌な顔をした。


「……また始まったぞ」


「今度は何だ」


「土か?」


之正は静かに答えた。


「道です」


皆、

ますます嫌そうな顔になる。


場所は。


以前、

荷車が止まっていたぬかるみ。


鍬。


石。


木。


土。


集められていく。


万吉は、

紙を持ちながら真剣だった。


「ここ、

ほる」


「ここ、

いれる」


「ここ、

つむ」


小さな指で、

地面を示していく。


之正は半信半疑のまま、

家人達へ指示を出した。


「浅く掘れ」


「石を敷け」


「その上へ木を渡せ」


「土は均して乗せろ」


皆、

作業しながらも首を傾げている。


「何を作っておるんだこれは」


「道……らしい」


「本当に大丈夫か?」


だが。


万吉だけは真剣だった。


じっと見ている。


土の高さ。


石の位置。


水が流れる向き。


やがて。


簡素な道が形になる。


下には石。


木。


その上へ土。


さらに。


横へ細い逃がし溝。


見た目は、

ただの小さな道だった。


万吉は、

その前へしゃがみ込む。


「みず」


桶が運ばれて来た。


之正が頷く。


水を流す。


ざあっ。


水が道へ落ちた。


土へ染みる。


石の隙間へ落ちる。


皆、

思わずしゃがみ込む。


じっと見る。


しばらくして。


ぽた。


道の横。


低い場所。


小さな水滴が一つ落ちた。


沈黙。


ぽた。


ぽた。


今度は。


少しずつ。


水が出て来る。


家人達が目を見開く。


「おお……」


「抜けてる」


「下通ってるぞ」


万吉も、

目を大きく開いた。


「でた!」


嬉しそうに、

横を指差す。


「ほら!」


「つたって、

ながれた!」


その顔は、

今まで見たどんな時より嬉しそうだった。


之正は静かに水滴を見る。


本当に。


水が抜けている。


土の上へ溜まらず。


下へ流れている。


之正は、

ゆっくり万吉の描いた紙を見る。


あの訳の分からぬ絵。


だが。


ちゃんと意味があった。


万吉は満面の笑みで、

道を見ていた。


「これ!」


小さな手で、

誇らしげに道を叩く。


「たまらないみち!」


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