第137話 「まとめて流す」 あるいは「書付の往来」
夜。
御着。
黒田の屋敷。
荷場采配役は再び屋敷を訪れていた。
案内された部屋では、万吉が机に向かっている。
紙。
書付。
線。
相変わらず何かを書いていた。
筆が動く。
止まる。
そしてまた動く。
荷場采配役は少し苦笑する。
何度見ても思う。
――よく書く若だ。
万吉は来客に気付くと筆を置いた。
「どうぞ」
自然な声だった。
荷場采配役は腰を下ろす。
そして昼間の様子を思い出しながら口を開いた。
「書付側が完全に詰まり始めました」
万吉は頷く。
「見てた」
実に普通の返事だった。
荷場采配役は続ける。
「どう致しましょう」
万吉は少し考えた。
そして紙を引き寄せる。
「まず」
筆先が紙を叩く。
「書付側を増やす」
「書付を送る場所も近くする」
荷場采配役は頷いた。
確かに理想だ。
だが。
「それは荷場側では決められません」
人員。
配置。
役目。
どれも荷場だけで動かせる話ではない。
万吉も頷いた。
「うむ」
理想はある。
だが今すぐ触れられる場所ではない。
だから万吉はそこで止まらなかった。
「なら次だな」
そう言って紙へ線を引く。
「今」
「全部個別で送ってる」
「それが問題」
荷場采配役は少し考える。
確かにそうだった。
書付ができる。
送る。
確認する。
戻る。
また送る。
往来が多い。
人も紙も常に動いている。
万吉は紙を指した。
「なら」
「まとめればいい」
荷場采配役は眉を上げる。
「……まとめる?」
万吉は頷いた。
「朝」
「昼」
「夕方」
「一回ずつまとめて送る」
「緊急だけ今まで通り」
荷場采配役は頭の中で流れを組み立てる。
もし常に送らないなら。
往来は減る。
確認もまとめられる。
書付側に余裕ができる。
人も無駄に走らなくて済む。
万吉は続けた。
「流れ全部を止める必要はない」
「往来の頻度を減らせばいい」
荷場采配役は黙り込んだ。
まただ。
この若は全部を変えようとしない。
今ある流れを整理する。
それだけだ。
だが。
それが実際に動かせる。
理想論ではない。
実務だった。
荷場采配役は頭を下げる。
「……試してみます」
万吉は頷いた。
「だめなら次考える」
あまりにも軽い。
荷場采配役は思わず笑った。
「黒田殿は」
「失敗する前提で考えておられるのですな」
万吉は少しだけ考えた。
そして首を傾げる。
「一回で上手く行く方が珍しいだろ」
真顔だった。
囲炉裏の火が静かに揺れる。
荷場采配役はその言葉を反芻した。
上手く行かなければ直す。
また試す。
そして流れを見る。
それだけなのだろう。
御着の荷場は、また少し変わろうとしていた。
大きな改革ではない。
だが確実な一歩だった。




