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第136話 「次の詰まり」あるいは 「書付側」



御着の荷場は、以前とは見違えるようになっていた。


紐。


荷札。


置き場。


細かな改善が積み重なり、流れが良くなっている。


「短紐、こっち!」


「荷札先だ!」


「濡れたやつは干し場へ回せ!」


荷方たちの声もよく通る。


探す時間は減った。


荷は詰まりにくい。


馬も待たされにくい。


「前より回るな」


「探す時間が減った」


そんな声も聞こえていた。


改善は確かに成功していた。


だが。


だからこそ見えてきたものがある。


書付側だった。


紙が積まれる。


確認が増える。


呼び声が飛ぶ。


「待て!」


「まだ見てない!」


「次持って来るな!」


「確認終わってねぇ!」


書付役たちは追われていた。


以前は荷場そのものが詰まっていた。


だが今は違う。


流れが良くなった分だけ、仕事が書付側へ集まっている。


荷場采配役はその様子を見ながら眉を寄せた。


「……追いつかんな」


小さな呟きだった。


改善は成功した。


だからこそ次の詰まりが見える。


荷方には余裕がある。


荷場も回る。


だが書付側だけが追われ始めていた。


荷場采配役は考える。


書付役を増やすか。


だが現実は簡単ではない。


人が足りない。


慣れた者はもっと少ない。


字が書ける。


確認ができる。


記録が残せる。


そんな人間は限られている。


だからといって流れを戻すのも違う。


せっかく良くなったものを悪くする理由はない。


荷場采配役は悩んだ。


そして自然と視線を向ける。


その先には万吉がいた。


静かに荷場を見ている。


人の動き。


紙の流れ。


止まる場所。


何も言わずに見ている。


荷場采配役は思った。


――黒田殿ならどう見る。


その日の仕事が終わる頃。


荷場はようやく静かになった。


荷場采配役は万吉へ歩み寄る。


少し迷い。


そして口を開いた。


「黒田殿」


万吉が振り向く。


「また屋敷へ伺っても?」


万吉は即座に答えた。


「来い」


そして荷場へ目を向けたまま続ける。


「今度は書付側だな」


荷場采配役は思わず足を止めた。


まだ何も説明していない。


相談すらしていない。


だが万吉には見えていた。


荷が流れる。


すると次が詰まる。


一つ良くなれば、別の場所が苦しくなる。


その流れまで見えている。


荷場采配役は小さく息を吐いた。


この若は荷を見ているのではない。


人を見ているのでもない。


流れそのものを見ている。


御着の荷場は変わり始めていた。


そしてその変化は、まだ終わりそうになかった。


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