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第132話 「流れ」



御着の荷場は、今日も忙しかった。


荷が運ばれ、馬が行き交い、人の声が飛び交う。


流れは止まらない。


その中で与吉は昨日から始めた紐の整理を続けていた。


長紐。


短紐。


置き場を分ける。


札を付ける。


実に地味な作業だ。


だが効果は出ていた。


「短いの、すぐ取れるな」


「濡れたの干してあるぞ」


「前より早ぇ」


荷方たちの口からそんな言葉が出始めている。


探す時間が減った。


それだけで荷の流れが少し良くなっていた。


その様子を荷場の再配役役人が眺めていた。


昨日来たばかりの黒田の若。


その側近が始めた妙な工夫。


だが確かに成果が出ている。


仕事の合間を見て、再配役は万吉に近付いた。


「黒田殿」


万吉が振り向く。


「なんでしょう」


再配役は並べられた紐を見る。


「これは紐の分別ですか」


「探しやすいように」


あまりにも当たり前のような返事だった。


再配役は小さく頷く。


「……なるほど」


その時だった。


荷場を眺めていた万吉がぽつりと呟く。


「まだ流れ悪いな」


再配役は思わず聞き返した。


「……流れ?」


万吉は荷場へ視線を向けたまま答える。


「書付が行き来し過ぎてます」


「荷が待ってる時間も長い」


再配役は黙った。


言われてみればそうだった。


荷が止まる。


人が確認に走る。


書付が戻る。


また確認する。


皆が忙しく動いている。


だがその忙しさが、本当に必要な動きなのかと言われれば分からない。


再配役は今まで荷場を見てきた。


だがそれは仕事としてだった。


万吉のように流れとして見たことはない。


「あと」


万吉が続ける。


「荷方がどこで待てばいいか分かってない」


「だから邪魔な所で止まる」


再配役は再び黙り込んだ。


馬が詰まる。


荷が重なる。


人がぶつかる。


どれも小さなことだ。


だが小さなことが積み重なれば流れは悪くなる。


逆に言えば。


小さな改善を積み重ねれば流れは良くなる。


紐の整理もその一つなのだろう。


再配役はもっと話を聞きたくなった。


だがここは仕事場だ。


しかも相手は黒田の嫡男。


気軽に捕まえて話し込むわけにもいかない。


どうしたものかと考えていると。


万吉が何でもないように言った。


「詳しく聞きたいなら」


「黒田の屋敷、来ます?」


再配役は思わず固まった。


「……よろしいのですか」


「夜なら暇です」


「書き物してますし」


あまりにも気軽な誘いだった。


再配役は困ったように苦笑する。


黒田の屋敷へ。


そんな簡単に行っていいものなのだろうか。


だが同時に。


心のどこかが強く惹かれていた。


――流れ。


その言葉が頭から離れない。


今まで仕事として見ていた荷場。


だがこの若は違う。


荷でもない。


人でもない。


帳面でもない。


その全てが動く流れを見ている。


それが再配役には妙に新鮮だった。

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