第129話 「祖父の話」
夜。
御着。
黒田万吉は祖父・黒田重隆の屋敷にいた。
昼の登城を終え、ようやく一息ついたところである。
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御着城。
人。
荷。
声。
その全てが山裾とは違っていた。
人の数も。
流れる物の量も。
比べものにならない。
万吉は表には出さなかったが、少しばかり疲れていた。
流れが大き過ぎるのだ。
どこを見ても人が動き、荷が動いている。
止まる事がない。
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囲炉裏の火が静かに揺れていた。
部屋にいるのは、
万吉。
井上之正。
与吉。
そして祖父の黒田重隆。
他にも黒田家の者が数人いた。
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しばらくして重隆が口を開く。
「それで」
「どこへ回された」
万吉は湯呑を置いて答えた。
「荷場です」
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重隆は少し目を細めた。
「……荷場か」
短く呟き、しばらく考える。
そして小さく笑った。
「なるほどな」
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与吉が首を傾げる。
「良い場所なのですか?」
重隆は頷いた。
「御着の荷場は、人も物も流れる」
「つまり」
「銭の流れが見える場所だ」
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囲炉裏の火がぱちりと鳴る。
重隆は静かに続けた。
「小寺殿は」
「万吉をそこで見たいのだろう」
「本当に使えるか」
「何を見るのか」
「人を動かせるか」
その言葉に、部屋の空気が少し引き締まる。
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万吉は考えた。
荷。
人。
流れ。
確かに市とよく似ている。
だが、御着の荷場はもっと大きい。
播磨各地から物が集まり、人が集まる。
一つの判断が多くの者へ影響する場所だった。
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重隆はさらに言う。
「御着は山裾とは違う」
「利だけでは動かぬ者もおる」
万吉は顔を上げる。
重隆は指を折りながら続けた。
「格」
「家」
「立場」
「そういったものが絡む」
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井上も静かに聞いていた。
御着では、ただ便利にすれば良いという話ではない。
誰の荷なのか。
誰が口を利いたのか。
どの家に利があるのか。
そうしたものが複雑に絡み合う。
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重隆は火を見つめながら続けた。
「山裾では」
「万吉が利を作れば、人が寄った」
「だが御着では違う」
「その利で飯を食っておる者もいる」
「面白く思わぬ者も出る」
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与吉も真顔になる。
人が多いという事は、それだけ利権も多いという事だった。
誰かが得をすれば、誰かが損をする。
山裾より遥かに難しい。
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やがて重隆は万吉を見る。
「だから」
「あまり好きにやるなよ」
「ここは小寺の中だ」
静かな忠告だった。
だが重みがある。
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万吉は少し考えた。
それから答える。
「……努力します」
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与吉が思わず吹き出した。
「今、努力って言いましたよね」
井上も苦笑する。
「若なりに自覚はあるのです」
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部屋に小さな笑いが広がった。
重隆も肩を揺らす。
だが笑いの奥には緊張が残っていた。
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小屋とは違う。
御着は違う。
ここには様々な家の思惑があり、利があり、権威がある。
そしてそれらが複雑に絡み合っている。
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囲炉裏の火は静かに燃えていた。
その光を見つめながら、万吉は明日から向かう荷場を思う。
人が集まり。
物が集まり。
銭が動く場所。
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御着。
そこは播磨の流れが集まる場所だった。
そして同時に――
多くの思惑がぶつかり合う場所でもあった。




