第113話 冬前
秋。
終わりかけ。
稲刈り。
終わった。
干し物。
並ぶ。
倉。
少し埋まり始めている。
栗。
干し柿。
樽。
塩。
生姜。
山裾。
かなり:
「冬前」
の空気になっていた。
朝。
冷える。
風。
乾く。
火の周りへ集まる時間も。
増え始めていた。
その頃。
井上之正。
数日。
小屋を離れていた。
理由。
「小競り合い」
。
大戦ではない。
だが。
近隣の村同士。
少し揉めた。
そのため。
黒田側から。
井上が出されていた。
夕。
小屋。
囲炉裏。
火。
ぱちり。
外。
かなり冷えている。
その時。
戸。
開く。
井上。
戻って来た。
草鞋。
泥。
肩。
少し疲れている。
女衆。
「お帰りなさい」
「冷えてますよ」
湯。
出される。
井上。
礼を言いながら。
腰を下ろした。
すると。
万吉。
普通に聞く。
「終わった?」
井上。
長く息を吐く。
「ひとまず」
「山の権利でした」
万吉。
少し首を傾げる。
「山?」
井上。
頷く。
「炭焼き場です」
「あとは、
木を切る場所」
「冬前は、
皆余裕が無くなりますので」
「山一つでも、
揉めます」
囲炉裏。
少し静か。
炭。
赤い。
万吉。
火を見る。
少し考える。
「炭無いと、
困るもんな」
井上。
頷く。
「ええ」
「火も」
「鍛冶も」
「冬越しも」
「全部止まります」
周囲。
静かに聞いている。
最近。
小屋。
炭。
かなり使う。
焼き見世。
干し場。
鍛冶。
保存。
全部。
火がいる。
つまり。
山。
木。
炭。
それ自体が:
「流れ」
だった。
井上。
さらに続ける。
「しかも」
「冬前は、
皆貯め込みます」
「余裕がある時は、
譲れるんです」
「ですが」
「寒くなると、
そうもいかん」
万吉。
少し黙る。
外。
風。
鳴る。
井上。
湯を飲みながら。
ぽつり。
「今年は、
まだ軽い方でした」
「ですが」
「乾く季節ほど、
揉め事は増えます」
万吉。
囲炉裏。
見ている。
火。
揺れる。
炭。
赤い。
そして。
ぽつり。
「……冬って」
「止まりやすいな」
井上。
少し笑った。
「だから皆」
「止まらんよう、
必死になるんです」
小屋。
静か。
外。
かなり冷えて来ていた。
播磨。
冬前。
人も。
村も。
少しずつ。
余裕を失い始める季節だった。




