第114話 私的活動
年が明けた。
姫路。
黒田屋敷。
正月の空気。
冷えた空。
白い息。
そして屋敷の中は、朝から人の出入りが絶えなかった。
家中。
村役。
商人。
流れ商人。
普請に関わる者。
黒田と繋がりある者達が、次々と挨拶へ来ている。
去年までより、明らかに人数が多い。
しかも。
来る顔ぶれが広い。
武士だけではない。
商人や村の者まで来ている。
理由は皆分かっていた。
最近の姫路。
流れが変わっている。
市。
茶。
焼き物。
人。
そして。
その中心にいるのが。
黒田万吉。
今年。
万吉もまた、正式に:
黒田家嫡男
として座っていた。
まだ若い。
だが。
もう周囲は:
“ただの若”
として見ていない。
だから。
皆。
気になる。
本当に。
何をしているのか。
挨拶が続く中。
一人。
口を開いた。
「若は」
「山裾で小屋をしておるとか」
広間。
少し静かになる。
万吉。
普通。
「ああ」
「小遣いを貰っておるので」
「遊んでおる」
周囲。
一瞬止まる。
だが。
本人は真面目だった。
さらに別の者。
「普請もしておると聞きますが」
万吉。
普通に頷く。
「私的活動じゃ」
「昔から、地を見るのは好きでな」
井上之正。
少し離れた場所で。
遠い目。
実際には:
市が広がり。
倉が建ち。
人が流れ。
保存が増え。
税まで増えている。
だが。
本人。
本気で:
遊び
感覚。
そこへ。
また別の者。
興味深そうに聞いた。
「姫路の市」
「随分賑わっておるそうですな」
万吉。
普通に頷く。
「うむ」
「市見て、食べ歩きしておったら」
「うまかったので」
「一言、言ってやった」
広間。
静かに聞いている。
万吉。
さらに続ける。
「そしたら」
「他も言って欲しいと、持って来るようになった」
「滞在時間長くなってな」
「椅子を出してもろうた」
「茶も飲み始めた」
「そしたら、人増えた」
かなり雑な説明。
だが。
嘘ではない。
ただ。
本人。
一番重要な部分を。
重要と思っていない。
だから。
聞いている側ほど困る。
そこへ。
また別の者。
「塩屋へ、屋号を付けたとか」
その瞬間。
万吉。
少しだけ機嫌が良くなった。
「ああ」
「あの塩屋」
「市で結構、混雑作っておったからな」
「父上に、もう一軒出させるよう勧めた」
「礼に塩を持って来てな」
「屋号を付けて欲しいと言うので」
少し考え。
そして。
「“姫塩”と付けた」
周囲。
少し感心した空気。
「確かに」
「良い名ですな」
万吉。
少し満足そう。
「われながら、なかなか良い名と思う」
さらに。
「姫路の塩は、任せろと言っておった」
「おぬしらも」
「姫路で塩求めるなら、姫塩を頼るといい」
その瞬間。
何人か。
本気で頷いた。
もう:
姫塩
の名。
通り始めている。
少し離れた場所。
黒田職隆。
その様子を静かに見ていた。
万吉。
ただ。
普通に話しているだけ。
だが:
人が聞き。
名が広がり。
商いが動く。
それを。
本人だけが。
あまり大事と思っていない。
職隆。
小さく息を吐く。
(……本当に)
(遊んでおるつもりなのだろうな)
だが。
その:
遊び
が。
確実に。
姫路の流れを変え始めていた。




