第17話.俺の気持ち
「このマンション、入口がないんだけど。
どーやって入るの?」
そう。
突如、地中から飛び出してきたシェルターマンション。
1階全部壁なんだけど。
入口がないとか どんな欠陥住宅だよこれ!!
「シェルターバージョンから、普通のマンションバージョンにならないと入口は出てきません。」
は?
バージョン?
「今、上から順にマンションバージョンになっております。
下までマンションバージョンになるまで、しばしお待ちを。」
世良さんが、自分のゴーグルを外して俺に渡してきた。
見てみると、微かに上の方の外観が変わってきている。
「おおお!!窓が…出て来た!!」
シェルターバージョンの時は、窓はシルバーっぽい四角い物がくっついてる感じだったのだが…
マンションバージョンになりつつある上の方の窓は、ガラス張りの窓になってきていた。
凄いな……文明って。
「…マンションバージョンになるの、時間掛かりそうだね…」
ゴーグルを付けて見上げながら呟いた俺を見て、久遠が笑った。
「…え。なんで笑った?」
「…いちはん、今ホッとしたやろ。」
「へ?」
「時間掛かるなー思った瞬間、ホッとしたやろー。」
「…してない。」
「なんで緊張しとるん?たかが元カノに再会するだけやんかー。」
「…たかが!?」
「近所のおばちゃんに会うようなもんや。気楽にいきぃや。な?」
「全然違うと思うんだけども!!」
「同じやて。堂々としとったらええねん。腕広げてみ?泣きながら胸に飛び込んで来はるけぇ、優しく抱きしめてやったらええ。
あ、あかんな。アンドロイドは泣けへんねやったな。
まぁ、飛び込んで来るけぇ抱きしめときぃや。」
…………。
「久遠て、彼女いた事ないって言ってたよね?」
「ないで。」
「……マジで?」
「ないで。」
…………。
「……じゃあ、童貞?」
「なんでやねん。んな綺麗ちゃうわww」
はぁああああああああ!?
「ふざっけんなよ!?俺を爆ぜろとディスった事、今ここで謝罪してもらおうか!!!!」
「いちさん。人間は過酷な現状の中で生きているんです。
種を残そうという本能的な行為は、しごく当然の事で…」
「ちょっと黙ろうかギン君!?ごめんなさい!!俺が悪かった!!そうだよね久遠イケメンだもんね更には剣術凄くて強いし?性格だって頼りになって引っ張る男だし?女がほっとかないよねーーー!!!欠点と言ったらシスコンぐらいだしね!!」
「ちょぉ待ちぃや!!シスコンってなんやねん!!」
「あーー莉音ちゃん早く目覚めないかなぁあーー!!お兄ちゃんの土産話いーっぱいあるんだけどなぁあーー!!」
「んなっ……!!……あああーー早くノアの姉ちゃん治らんかなーー!!いちはんに恋人おったーゆうたらどんな反応するんやろーなー!!」
「ちょっ……!?何それ!?べべべべ別に?ノアにしてみたら、だから?みたいな反応だと思うし?べべべべ別にどーも思わないと思うし??」
「ふぅーーーーん?」
うわぁ!!凄いムカつく!!
だいたい、ノアに言うってなんだよ。
ノアに言ったって……
「ノア……治療終わったかな…」
ポツリと呟いた俺の肩を、久遠は優しく笑いながらポンポンと叩いた。
ムカつく。
『ノア=エイルでしたら、既に治療が終了して このシェルターマンションで保護しておりますが?』
「……え!?ノア治ったんですか!?」
『ええ。目が覚めた時大変だったそうです。』
「大変……?」
『あなたが傍にいない事を知って、半狂乱になって暴れまくったとか。部屋が一つ潰れたと報告を受けております。』
…………すいません。
ほんっと、すいません。
でも、ノア治ったんだ。
良かった……。
ほんとに良かった…。
「でも、電波遮断されてるのにどーやって連絡を?」
「我々にも、雇っている黒子はおりますので。」
優秀な黒子じゃないか。
うちの黒子と交換してくれないかな。
「じゃあ、このシェルターマンションに入ったら まずノアに会いに行かないとだね。」
『…は?いえ、まずは双葉様にお会いして頂かないと。』
「あ、うん。でも、双葉さんに会うのは、ノアも一緒じゃないと。」
『なぜです?』
「なぜ……って…。俺がそうしたいからなんだけど。」
『………。』
ギンは、そんなやり取りをポカンとした顔をしながら見ていたが、エスパー力が発動したのか
余計な事を喋り出した。
「ノアさんの知らない所で会うと、後でノアさんヤキモチ焼くかもしれないですからねぇ。」
「え?いや、そーゆうのとはちょっと違うかな?あいつのは、主人に対する依存みたいなもんだと思うし…さ。」
「“違うかな??”“あいつのは?”」
「…何?」
「………いいえ。
世良さん。こーゆう事なので、すみませんがノアさんを先に拾ってから最上階へ……で、よろしいですね?」
『…………』
世良さんは眉間にシワを寄せ、ギンは嬉しそうに笑っている。
「前のいちさんは、双葉さんの恋人だったかもしれない。
何よりも先に双葉さんに会わなければならないのかもしれません。
でも、今のいちさんは僕達の主人だ。
そして今ここにいるのは、今のいちさんです。前のいちさんではない。
双葉さんを優先する道理はありません。
ノアさんが先です。
僕が言っている意味、わかりますよね?」
『……不愉快Death。』
『…ちょっと待って下さい。僕も今のは不愉快です。』
『その男が薄情にも記憶を無くしたりしたのが悪いんだろうが。
なんでそのせいで双葉様を後回しにされるんだ。
この子ども型はアホなのか?』
第1区の1、4、5番がキレた。
「ちょ、ちょ、ちょ、待って待って!!
皆さん落ち着いて?ね?
あの、双葉さんを後回しにとか そーゆーんじゃなくて…順番付けたりとかやめません?」
『だったら双葉様が先でも構いませんよね?』
「………」
いや、わかってる。
俺がワガママ言ったのが悪かったんだよな。
わかってるんだけど…
「ダメです!!ノアさんが先です!!」
俺の身体を片手で抑えながら前に出て、ギンが世良さんを睨みつけた。
「ギン坊、どんどん子どもらしくなってきたなぁ。
ええやん。可愛ええやん。」
「闘うのか?やるならまだマンションの下の方がシェルターバージョンになってる今だな。」
『面白ぇwwww喧嘩だ喧嘩!!こいつらとやっていいの?いいの?いいんだよな?
デカしたクソチビ!!』
戦闘狂の久遠、リーヴ、じゅんが ギンに続いてウキウキしながら俺の前に出る。
『……いちさん。貴方、この人達のリーダーなんDeathよね?
貴方の無責任なワガママでこーなってるんDeathですけど?
死にたいんDeathか?』
「はぁ!?死にたい訳ないでしょう!?ビックリだ。」
『ビックリは、こっちDeath!!』
ほんと、ビックリだ。
俺は今凄くビックリしている。
あのギンがだよ?この人達相手に最初に担架切っちゃったよ。
ちょっと嬉しかった。
それがビックリだ。
だって、今俺の頭の中で
ノアのあの言葉が反響してる。
“記憶が戻ったら、今のいちはどうなるの?”
不安そうな顔をして、そう俺に聞いたノア。
思わず、ギンの頭をワシャワシャと撫で回して笑ってしまった。
「ちょっと!!何するんですかいちさん!!」
「お前もか。」
「は?」
可愛い奴め。
あの不安を抱いていたのは、ノアだけじゃなかったんだな。
「世良さん、俺最初に言いましたよ?」
『……?何をDeath?』
「俺は、ただのワガママ男ですって。」
『……』
リーダーとして最低だと思う。
ちゃんとしたリーダーならば、皆の安全を第一に考えなければならない。
ここでこの人達と喧嘩するなんて、もってのほかだ。
止めなければならない。
それがリーダーである俺の責任だ。
一般的にはね。
だけど、我慢してそんな選択をする俺を こいつらは絶対に良しとしない。
「ワガママですけど、ノアに先に会わせてください。
……てゆうか、会いたいんです。
早く…会いたいんです。」
会いたいって思ったら、もぉ早く会いたくて仕方なくなってしまった。
「………ちょっと……
なんか僕、恥ずかしいんですけど…」
「なんでギンが赤くなるんだよ!?
俺が一番恥ずかしいよ!!!」
「ええなぁ…。爆ぜろや。」
『え?何?つまりどーゆう事?』
「いちはーん!!じゅんがわからんってよ?ハッキリ言うたって!!ほら、言うたってー!!」
「やかましいわ!!!」
『なんで俺が怒られるんだよ!!久遠てめぇちょっとツラ貸せや!!』
「…リーヴ様…今なら私も言える気がします…」
「はぁ?やめろ。
何を言う気だ。
恥ずかしいのは、いちだけで充分だ。」
「……なんか俺…
公開処刑されてる気分になってきた…」
久遠に突っつかれなくても、ギンに遠まわしに探られなくても、もうわかってるよ。
今の俺は、ノアが好きなんだ。




