第13話.天馬
「こ……これに乗るの…?」
『そうですよ。何か不満でも?』
「足が8本ある。」
『スレイプニルは足が8本あると言われていますから。』
「スレイプニルってタコなの?」
「何言ってるんですかいちさん!?スレイプニルは、あのオーディンが乗っていたという伝説の愛馬ですよ!?」
「え、オーディンって神様だっけ…」
「北欧神話に出てくる戦争の神ですね。」
「戦争!?そんな神の馬モチーフにしてんの!?」
「つまり、スレイプニルに乗るいちさんは神というイメージな訳ですね。ふふふ。笑えます。」
「笑えねぇよ。」
『面白ぇじゃーん!!俺コイツに乗りてぇなぁ。』
「……じゅん。じゃあ乗れば?」
『でーも馬乗りから、一方的になっちまうなぁ。』
「は?」
「いちさん、じゅんはスレイプニルと闘う気ですよ。乗りながら。」
「お前早くエアバイクに乗れよ脳筋馬鹿。」
『ひゃひゃひゃひゃ』
乗るはまだしも、なんで闘うんだよ脳筋馬鹿。
ええと…。
スレイプニルとペガサスと…何だっけ?
天馬は俺をガン見したままピクリとも動かない。
怖い。
足8本もいらんくね?
つーか、ただのペガサスでよくね?
なんで色々組み合わせちゃったかな。
いいトコ取りしちゃえーみたいなこと考えちゃった?
「ねぇ、ギンもコイツに乗せていい?」
「ふぁっ!?」
「ギンは戦闘要員じゃないからさ。出来るだけ近くにいさせたいんだ。
それに、ギンは俺の参謀みたいなもんだからさ。
近い方が指示も分かり易い。」
『なるほど。わかりました。ではギンさんは、いちさんと共に天馬に。』
「……エアバイクじゃ、ダメですか?」
「エアバイク運転しながらマップ見るの無理でしょ?ただでさえ片手なんだから。」
「……は…い。」
気持ちはわかるよ。
俺だってコイツに乗るの、ぶっちゃけ怖ぇもん。
「メル!!メルは俺のフードコートの胸元に入ってな。」
「アイサ!!」
メルはモソモソと俺のフードコートの中に潜り込み、ピョコンと首元から顔だけ出した。
うん。
可愛い。
そして、俺は天馬へと向きを変えた。
うん。
怖い。
「いちさん、早く乗って下さい。」
「乗るっつってもさ、これ馬より遥かにデカイし…どーやって乗るんだよ…」
すると、天馬はゆっくりと身体を伏せた。
あ…乗せてくれるんだ…。
ちゃんと俺を主人としてインプットしてくれてるんだな…。
恐る恐る跨って、ギンの手を引っ張って自分の前に乗せた。
轡の様な湾曲した棒が首筋から2本背中に向けて伸びている。
「これに掴まるのか…」
良く出来てるなぁ…。
『では、逝きますよ。まずはSOSが出た朱雀門へ!!』
エアバイクに乗った世良さんの隣には、大きな白虎がピッタリと寄り添っている。
白くて大きな純白の虎。
かっこいいな白虎……。
そして、じゅんもエアバイクにヒラリと跨った。
似合うなこいつ。
「…あれ?黒子どこ行った?」
「聞かなくても分かるでしょう?いちさん。」
「あんの野郎ぉおおお!!自分が連絡係になれるとか考えない訳!?」
「考えないでしょう。あの人はリーヴさんの事しか考えません。」
じゅんといい黒子といい、どいつもこいつも、なんでこんなに勝手なの!?
あぁ……もぉ…
戦う前から疲れたよ…。
「…よし、行こう…か、天馬!!」
スレイプニルとは、なんとなく呼べなかった。
天馬の羽根がバサリと大きく揺れ、その風圧で早くも地面から浮いた。
そのまま天馬は、俺とギンを乗せて空を駆け抜ける。
「…す、すげぇ。飛んでる…。馬に乗って飛んでる…。ファンタジー感満載すぎる!!」
「いちさん、神の気分はいかがですか?」
「平民のままの気分です。」
馬だけで神になれるか!!
『いちさん!!まずは朱雀門に向かいます!!朱雀と4番の類、私と私の白虎がいれば、すぐにでも押し戻せる!!そうすれば後は類と朱雀に任せ、私達はそのまま青龍門に行き、青龍門を奪還します!!青龍と大和が倒された以上、かなりの混乱が予想されます!!ご覚悟を!!』
「早口でほとんど何言ってるか、わかりません!!」
『は!?』
「ギン!!おっけー!?」
「はい。大丈夫です。」
「ギンがわかったみたいなので、大丈夫です!!」
『……そう…Deathか…』
あ、やっぱり怒った。
『見えてきました…………なん…だ…あれは……!?』
「……え?」
ギンが、手に持っていたマップをグシャリと握り潰した。
その手は震えている。
「…こんな…っ…最悪のシナリオは頭に置いてはいましたが……これは…っ…」
世良さんは、目の前の光景を見て呆然としていた。
無理もないと思う。
俺も、何が起こっているのか まだ信じられない。
真っ赤な翼を持つ大きな鳥、朱雀。
青い鱗に長い身体をを持つ龍、青龍。
この二つの聖獣キメラの姿は、見た瞬間にすぐにわかった。
だけど、今
どう見ても朱雀が青龍に襲われているのだ。
朱雀は、味方を庇いながらも必死に青龍の攻撃を受けている。
「なんで!?青龍は味方なんじゃないの!?なんで朱雀を攻撃してるの!?世良さん!!」
『……っ……』
信じられないといった顔で呆然としている世良さんに代わり、ギンが震えながら呟いた。
「3番の大和さんの姿がありません。………いとも簡単に破られた青龍門。分かっていたかのような青龍門から流れ込む敵の数の異常な多さ。
そして、朱雀を攻撃している青龍……。
馬鹿でもわかる図式ですよ…いちさん…」
「……3番の大和さんが…裏切っ…た…?」
ジャリ…
俺の隣にいた世良さんが、ゆっくりと前に歩を勧めた。
そのままゆっくりと、朱雀と青龍に向かって右手を上げる。
『白虎。命令する。
朱雀と共に……青龍をぶち殺せ。』
その声を聞いた白虎は、朱雀と青龍に向かって猛スピードで弾くように飛び出して行った。
怒りに満ちた、禍々しいオーラが世良さんから漂ってくる。
俺達の戦場での戦いは、まさかの3番大和の裏切り行為という最悪な展開から始まった。




