第12話.SOS
有り得ないスピードで直進する車。
車輪が大きめの石を踏むたびに、車と車内の物が重力シカト状態となって浮きまくる。
車内は、もはやカオスだった。
座席の下に、上手いこと自分にジャストフィットするサイズの空洞を見つけたギンは、そこに潜り込んでマップを見ながら1人落ち着いていた。
「青龍門から なだれ込んで来ている敵が、そのまま朱雀門に向かってますね。朱雀門は中と外からの挟み撃ちになります。……ここも落ちますよ。」
『……チッ…』
それを聞いた運転している世良さんの顔が歪んだ。
「しかし、少し妙ですね…」
「何が?」
「せっかく青龍門を落としたのだから、そのまま一気に中央門に突撃かけたくなるものでしょうに…。
わざわざ朱雀門を先に落としに行くとは…」
「周りをキッチリ落としてから、本命の中央門を落とすって事じゃん?しっかり計画立ててる感じするけど?」
「…丁寧…すぎませんか?…久遠さん。」
「丁寧すぎやな。」
「普通なんじゃないの?」
「…5区が参戦しとらんかったらな。」
『5区…ですか。確か久遠さんは5区からの…』
「はー。もぉ有名になってんなぁー。
…あいつらは滅茶苦茶や。理性っちゅーもんがあらへんねん。あいつらがおったら、こんな丁寧な闘いにはならへん。もっと滅茶苦茶な戦場になっとるわ。」
「え、じゃあ5区はどこに…」
久遠は蛹をタンッと車の床に付け、冷たい目で言い放った。
「5区は、まだこの戦争には参戦しとらへん。この闘いにはなんか別の目的があるんやろな。」
どーゆう事だ…? と言いかけて、俺は車の端から端へと転がった。
世良さんが急ブレーキをかけながら、左に旋回して止まったからだ。
「痛いぃぃいいい!!頭打った!!何事!?」
慌てて頭を抑えながら飛び起きた俺は、目の前の光景を見て唖然とした。
道が塞がっているのだ。
大岩がいくつも重なり、向こう側を見る事も出来ない。
「こ…これ、飛ぶしかないんじゃ?」
『この車は飛べません。』
「飛べないの!?」
『……チッ…。ここからは、エアバイクで………っ!?』
喋りながら、南側の空を見上げた世良さんの顔が一瞬で硬直した。
南側の空へと、白い煙が立ち登っていたからだ。
「白い…信号弾ですか?あれ?白いのはどーゆう意味で??」
ギンの質問に、世良さんは唇を噛み締めた。
『SOS……Death。』
SOS……!?
『朱雀門までが…っ…落ちるっ…』
世良さんはギリッと歯を噛み、同時に車の横をバンッと思いっ切り叩いた。
すると、ボッッという激しい音と共に数台のエアバイクが車から飛び出して来た。
「エアバイク…車に収納されてたんだ!?すっげー!!」
感動する俺をスルーして、世良さんは怒りに満ちた瞳をリーヴと久遠に向けた。
『リーヴ隊長、久遠さん。貴方達二人は白虎門に向かって欲しい。』
「白虎門…?」
「なんでや。朱雀門が先ちゃうんか?」
『私の白虎を呼び戻したい。5~6がいるとはいえ、白虎無しで門を守るのは厳しいかもしれない。
遠距離と近距離。両方を送りたいのだ。貴方達2人なら安心して任せられる。』
「…しかし…俺はいちから離れる訳には…」
「いいよ。リーヴ。リーヴが適任だっていうなら、行くべきだと思う。」
「いち……」
『貴方の御主人は、私が命に変えてもお守りする。
ー……頼む。』
「俺はええで。白虎門にはどの位敵が来とるん?」
「ええと…、思ってたよりは少ないですね。青龍門と朱雀門に対する敵の量がおかしいです。白虎門と玄武門は、青龍門と朱雀門から見て中央門を挟んでますから…お互いにかなり距離が離れる事になりますが…」
ギンが、説明しながら不安そうにマップを見つめた。
離れるって事に、恐怖を感じるのはノアに限った事じゃない。
「大丈夫だよギン。すーぐ会えるって。この前の2区での闘いだって、俺達は離れたけど すぐ会えたじゃーん?
ね?この寂しんぼ。」
ナデナデと頭を撫でる俺の手をパンッと叩いてふてくされるギン。
すると、世良さんが大声で叫んだ。
『来い!!白虎!!』
声でかっ!!!
耳の鼓膜が破れるかと思う程の大声。
思わず耳を塞いで目をつぶった俺だったが
ドカンッという激しい音と地面の振動でふらついて、また転びそうになった。
「んぎゃあああああああああ!!」
ふと開けた目の前に現れた物体を見て、俺は自分の声で自分の鼓膜が破れるのではないかと思う程の声を上げてしまった。
「何これ!?何これ!?」
『私の白虎ですが。』
「でかぁぁあああああ!!!」
そう。とてつもなくデカくて白い虎が、俺に背を向けて世良さんに頭を下げている。
「ふわぁー…。四神のキメラ、生で初めて見ましたぁ…」
ギンは、怖がるどころか目をキラキラさせていた。
『では、皆さんエアバイクに。リーヴ隊長、久遠さん。白虎門をお願い致します。』
「了解した。」
「白虎もう来てもうたからな。飛ばすでぇ。」
二人はエアバイクにヒラリと跨り、エンジンをかけると勢い良く空に舞い上がった。
「いち!!くれぐれも無茶はするなよ!!」
リーヴはそう叫ぶと、直ぐに前を向いて久遠と共にエアバイクで勢いよく白虎門のある西の方角へと飛んで行った。
「あっという間に見えなくなった…」
ポカンとしている俺の横に、世良さんがエアバイクを推して来た。
『これに乗って下さい。』
「え。俺免許持ってないですけど。」
『はい?』
「運転の仕方がわかりません。後ろに乗せてくださいよ。」
世良さんの顔が見る見るうちに真っ青になった。
『エアバイクは、1人乗りDeathけど。』
あれ?怒った…。
『乗れないって、どーゆう事です?』
「え?え?…だって…免許……ねぇ、ギン……………ギン君?」
「はい?」
ケロッとした顔でエアバイクにまたがっているギン。
あれ?何この子?運転する気なの?
どう考えても免許持ってないでしょあんた。
つーか、免許取れる歳じゃないでしょ!?
「無免許はいけません!!!」
「は?いや、免許って…何言ってるんですかいちさん。エアバイクに免許なんか必要ないですよ?」
「え、ギン乗り方知ってるの?」
「僕に知らない知識があるとでも?」
そういえば、さっき車運転してたな!!
『乗れないって…なんなんですか貴方…冗談やめて下さい。時間がないんDeath!!』
怒ってる!!
「いや、だってほんとに運転知らないっ……」
『もう歩いて来たらいいんじゃないDeathか。』
「着く頃には戦争終わってるよ!?あ、その白虎に乗せてよ!!でかいし背中に乗れそう!!」
『白虎は、主人以外が乗るとキレて食いますけど。』
どうすんだよ!!!
『…あっ…』
泣きそうになっていた時、世良さんが上を見て小さく呟いた。
『双葉様……。本当にこの男を…』
「え?何?」
『双葉様が、天馬をよこした様です。恐らくは、貴方が来ていることに感づいたのでしょう。』
「天馬……?」
空を飛ぶ馬の影が、突如俺達の上に現れた。
逆光ではっきりとは見えなかったが、ゆっくりと俺の前に降りくる。
天馬…ペガサスだよな。
男として、こんな心踊る聖獣に出会えるなんて光栄極まる。
はずだったんだよね。
「ねぇ、これペガサス?」
『まぁ、ベースはペガサスDeath。ペガサスに、ユニコーンとスレイプニルを合わせて作ったキメラです。』
「…………」
俺が知ってるペガサスと違う。
こいつ
足が8本あるんだけど。




