第4話.一瞬の変状
止血しなければと手でノアの背中を抑えるが、血は止まらずに俺の手から次々と流れ落ちていく。
「リーヴ!!早く!!ノアが!!」
「わかってる!!おい!!無事な奴は手伝ってくれ!!」
「なんだ!?どうした!?」
「いちが下敷きになったのか!?」
「いち!!今助けてやるからな!!」
リーヴの声を聞いたコロニーの皆が、次々と駆けつけてくれている。
「楓ちゃんはいる!?そこに楓ちゃんいる!?ノアが怪我してるんだ!!」
「いちさん!!楓です!!ノアさんの怪我ですがっ……私ではどうにも出来ませんっ…アンドロイドの怪我は医者ではなく、技工士に診せなければ……
」
「で…でもっ…傷薬とか俺達にも効いたじゃん!!」
「表面の傷ならば、もちろん私でも何とか出来ます。
表面は人間の肌と限りなく近いですから。
ただ…もし傷が深く、内部にまで及んでいる場合は…私では…」
この血の量だ。
あきらかに傷は深い。
「ノア…ノア!!」
何回名前を呼んでもノアはピクリとも動かない。
どんどん血は流れ、顔色も青ざめていくのがわかる。
「いち!!ここから出られるか!?」
ガレキをどかしてくれていたリーヴが、顔を出した。
「先にノアをっ!!リーヴ、ノアを!!」
リーヴと何人かがノアの身体を慎重に動かし、外に連れ出した。
俺もすぐに細い隙間を這って外に出た。
同じく、皆に救助された久遠も慌てて走って来る。
ノアはうつ伏せに寝かせられ、楓ちゃんが必死に止血しようとしていた。
「楓ちゃん!!ノアは!?大丈夫!?」
ノアの傷を調べながら、楓ちゃんが震えながら答えた。
「……き……傷が深すぎますっ…!!私では……」
何だよこれ……。なんで…。
だって、ついさっきまで普通に…あんなに元気だったのに…。
たった数分で…こんな……。
「とにかく、急いで輸血します!!早くしないと先に失血死で死んでしまいますよ!!」
楓ちゃんの叫び声を聞いて驚いた。
輸血……!?
楓ちゃんは、コロニーの皆に支持を出して大きなトランクを籠から運んで来てもらった。
それを開けて、輸血する為の機材の様な物をテキパキと取り出す。
こんな小さい機械で出来るのか…?
こーゆう医療機器って、もっと大きくてややこしい線とかチューブとかがいっぱいある様な…感じじゃないのか……?
カチャカチャと機器を器用に組み合わせる楓ちゃんに、ギンが 待った をかけた。
「お、おい…何だよギン?どうした?急がなきゃって、楓ちゃん言ってただろ!?」
「……僕のデータでは…、ノアさんの血液オイル型はAPRです!!この中に同じ型を持っている者がいるとは思えません…」
「……え?」
『さぁっすが踊り子だなぁー。激レアの最高級オイルかよー。』
じゅんが驚きながら、ピュウッ と口笛を吹いた。
ギンは悔しそうに手を握り締めると、絞り出すように言葉を呟いた。
「僕のデータでは……この血液オイル型の者は、ここには一人もいません。」
ギンも、リーヴも、おそらく じゅんも違う型って事か…!!
俺は楓ちゃんの肩を掴んで叫んだ。
「俺と凪ちゃんの血液オイル型調べて!!俺達はギンのデータにないんだ!!もしかしたらその血液オイル型の可能性だってあるかもしれない!!」
「凪のは、調べた事ありますが…違う血液オイル型です…」
「じゃあ、俺のを調べて!!」
『おいおいボスさんよぉ、言っただろ?最高級オイル型だって。そうそういねーんだよ、そんなオイル型持ってる奴なんて。』
「…まだ調べてもいない。そのセリフは、違うってわかった時に言えよ。」
『………へぇ。あんた、そんな顔も出来るんだぁ。』
じゅんに背を向けて、俺は腕をまくって楓ちゃんの目の前に差し出した。
「……えっ……!?いちさん…このバーコードの様な線は一体……」
「楓ちゃん。早く調べて。」
「…は、はいっ…」
慌てて楓ちゃんが俺の腕に注射器を刺して血液オイルを抜く。
気になるのか、チラチラと俺の腕のバーコードを見ながら。
あんなに見られるの、嫌だったのにな。
もう、そんなのどうでもいい。
どうか、俺の血液オイル型がノアのと一致します様に……!!
楓ちゃんは、取り出した俺の血液オイルを試験管に入れてから、何かの機械の中にセットした。
「大丈夫です。すぐに結果出ますから。」
楓ちゃんはすぐと言ったけれど、とても長い時間に思えた。
早く……!!
こうしてる間にも、ノアは血を流してるんだ…!!
ギン達が必死に血を止めようと、傷口を抑えて圧迫している為、流れ出る量は少し減っていた。
今のうちに、早く輸血しないと…!!
「……………えっ?」
機械を見ていた楓ちゃんが、ふいに声を上げた。
結果が出たのか?
「楓ちゃん!!どうだった!?その反応…もしかして一致したの!?」
「………あ…あの……」
「楓ちゃん?」
「…す、すみません……一致…しませんでした…」
楓ちゃんが、カタカタ震えながら答えた。
目の前が真っ暗になった。
気付くと俺は、膝をついていた。
どうすればいい……?
一体……どうすれば……
「……ち……」
ー……え?
顔を上げると、うつ伏せになっているノアの目が 僅かに開いている。
「…い…ち……どこ……」
「ノア!!!」
俺は慌ててノアの元に駆け寄り、ノアの手を取った。
「ノア!!大丈夫か!?」
「い…ち……怪我……は?」
「怪我したのはお前だ!!」
「…いち……は?」
「ピンピンしてるよ。…お前のおかげだ。」
「……そ……か…。…よかっ……た」
ノアは弱々しく笑って そう呟き、再び目を閉じた。
「ノア!?」
「また気を失った様です…。しかし…こんな状態で意識を戻すなんて……」
『…チッ……バカが。』
楓ちゃんの後ろで、ノアを見ながら じゅんが怪訝な顔をした。
『そんな身体で意識を無理矢理戻すなんざ、正気の沙汰じゃねぇ。寿命を縮める様なモンだ。』
「……ノア…」
本当に馬鹿だ。
そんな無茶してまで 俺の無事を確認するのかよ…。
ノアの手を握り締めた その時
またタコがユラリと揺れた。
「きぃちゃん、ぎぃちゃん、皆を!!
リーヴ、ギンと楓ちゃんをお願い!!」
叫びながら、俺はノアの身体をしっかりと抱きしめた。
これ以上傷を負わせる訳にはいかない。
この揺れが、どのような揺れなのかは わかってる。
タコの頭が、ゆっくりと垂れ下がっていく中で、外の景色がその答えをすぐに教えてくれたからだ。
タコの頭が、砂浜の上にピッタリと着くと、タコは頭の形をグニャリと変えた。
俺達を含めた食べた物を砂浜に残して、再びタコは海に戻って顔だけ出した状態になった。
『ご苦労だった。』
男の声を聞いたタコは、ゆっくりと海の中へと潜って消えた。
俺達は、第1区の領土に着いたんだ。
砂浜に残された俺達の目の前には、第1区と思われる大量の兵士が武器をこちらに向けて立っていた。




