第3話.タコの中
「………食われたぁ!?え?俺達食われたの!?」
「はー…。油断したわぁ。」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って!?どうすんの!?俺達このまま溶けて消化されちゃうの!?」
「ん?いや、このタコに消化器官はあらへんで。」
どゆこと?
「じゃあ、このままお尻から出れるの?」
『ぶふぉっ!!』
「げほっ」
俺の言葉に、じゅんとリーヴが同時に吹いた。
「いちさ…僕達は……ぶふっ…つまり…僕達は……げほっ!!」
「……ギン。いっそのこと思いっきり笑ってくれないかな。」
「あはははははははは!!!!」
素直な子!!!
「つ……、つまりですね。僕達は捕獲されたんですよ。このタコに。」
「捕獲!?」
「このまま、連れて行かれるんでしょうが……」
ギンがチラリと俺の後ろを見て顔を曇らせた。
「何…?……え、あれ?あれって、さっきの船!?」
振り向いた俺の目に止まったのは、さっきタコに突き刺されて海に引きずり込まれた5区の船の残骸だった。
バラバラになっていて、ほとんどが原型を留めていない。
「うわぁ……。引きずり込んだ後に食ったのかな…」
「いち。待って。」
船の残骸に近付こうとした俺の腕をノアが掴んで止めた。
皆がジリジリと俺を中心に集まり、身構えている。
「え?何?どしたの!?」
「いちさん。このまま連行されるならば、まぁ第1区へ入る事自体は出来るでしょうから、ちょうどいいのかもしれません。」
「まぁ、出来れば正規のルートで訪問したかったよね。タコに食われたまま、 お邪魔しますー じゃなくてさぁ。」
「問題はそこじゃありません。」
「へ?」
ギンの言葉を聞いて振り向くと、壊れた船の奥の方からゾロゾロとアンドロイドが姿を現した。
「何…だ?あいつら……。まさか、あの船の生き残り!?」
あそこまで船が無残に破壊されてるっつーのに、生き残れるもんなの!?
もちろん死体も大量にゴロゴロと船の近くに転がってるけど….。
そんな死体の中を軽快に歩く2人の男女がこちらに歩いてきた。
俺達は全員が腰を低くして身構えた。
男は余裕あり気な笑顔を浮かべていたが、女の方はふと久遠の顔を見て顔が凍った。
「…あんた…生きてたんだ…」
「あー。こりゃどーもぉ。おひさしぶりでんなぁ杏さん。
まだ生きてはったんかっちゅーんは、こっちのセリフでっしゃろー」
久遠は笑っているが、空気がピリピリしている。
そりゃそうだ。久遠からしてみたら、自分たち人間をことごとく皆殺しにしたアンドロイドが目の前にいるんだから。
「あの船の状態から無傷で生き残ってるんです。相当の手だれですよ。」
「第5区は、戦闘面ではずば抜けて強いですからね。」
男は、トントンとその場所で足踏みの様な物をしている。
体術に自信があるのかな?
久遠が蛹を握り締めたその瞬間
「え、まって?久遠。」
俺は久遠の手を止めた。
「ん?どないしたん?」
「久遠の敵は、俺らの敵だからね。」
気づくと、ノアが腕をポキポキ鳴らしながら、シュカさんも飛び道具をぴったりと女にロックオンしており、
さらに一番驚いたのは
物凄い速さで、その男をタコの壁まですっ飛ばした じゃんの回し蹴りだった。
「あのね。残念だけどね、久遠は1人じゃないんだなぁ。」
吹き飛ばされた男はピクリとも動かず、女はやっと状況が飲み込めた様子。
俺達を見ながら目を見開いて呟いた。
「なんで……第4区のナンバーに、2区のナンバー5までいるの…!?…しかもその女…ノア!?あ、あんた達……一体……っ!?ちょっと何なのよその集団!!」
俺達を指さしながら叫ぶ女に向かって、久遠がニカッと笑って言った。
「俺の仲間や。」
「チッ」
女が舌打ちをし、何やら無線のような物を取り出した。
「海路は、ほぼ失敗だ。邪魔が入った。そっちはどうか?」
『カガ……陸路は問題ない。やはり海路に戦力を集中させたのが正解だった。第1区の主力戦は皆、海岸に向かった。』
第1区の主力戦が海岸に…!?
「こいつらは、囮なんですね!?」
ギンが叫んだと同時に、女はありったけの銃を空めがけて乱射した。
空とは言っても、このタコがスケルトンだから空が見えるだけであって 実際には空ではない。
「…うわっ!?」
腹の中から銃を撃たれたタコは、大きく身体を揺らした。
同時に足元が急な斜面へと変わり、俺達は一瞬でタコの壁まで吹き飛ばされた。
「皆っ!!大丈夫!?」
俺は慌てて叫ぶものの、同時に吹き飛ばされてきた船の残骸の下敷きになってしまっていて身動きさえ取れなかった。
「皆!!!大丈夫!?皆!!」
必死に呼びかけていると、何人かの声が確認出来た。
「俺は…大丈夫や。けど、残骸に挟まって身動きが取れん…」
「久遠っ!!怪我は!?」
「大丈夫や。かすり傷がいくつかあるだけやで。他の皆はどうや!?」
「僕も籠の中にいたので大丈夫です!!とっさに、きぃちゃんとぎぃちゃんが籠を庇ってくれたので籠の中にいたコロニーの皆も無事です!!」
ギンの声にホッとした。
そんな時、俺は自分の上に暖かい何かが乗っている事に気付いた。
「……ノア!?」
俺に覆い被さるようにしてノアは気を失っている。
その背中には、大きな船の残骸。
こいつが飛んできたのを、庇うために俺に突っ込んで来たのか…!?
「ノア!!ノア!?大丈夫か!?ノア!!」
僅かに動く手で、自分の上に倒れているノアの上に乗ってる木材をどかそうとして、俺は息を呑んだ。
手に、べっとりと付いた赤いオイル。
アンドロイドでいう、血だ。
ー…嘘だろ…?
「ノア!!ノア!!」
「いち!?この下にいるのか!?」
俺の叫び声を頼りに探していたのか、リーヴの声が上の方から聞こえてきた。
「リーヴ!!!ノアが!!血が止まらないんだ!!リーヴ!!」
「今ガレキをどかしてやる!!
しかし、どかしたガレキの破片がそっちに落ちる可能性が高い!!ノアの身体に破片が落ない様に守ってやれるか!?」
「わかった!!」
俺は、ノアの下からなんとか這い出そうともがいた。
腕や足に、船の残骸板らしき物が当たる。ノアの下から這い出した俺は、狭い空間の中で先程ノアがやっていた体制と同じ様に、ノアの上に覆い被さった。
背中の傷が見える。
当たったのは、かなり大きくて重い木材だと思う。
傷の深さがそれを物語っていた。




