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ラムネ瓶の向こう側、君と目が合った季節。―青春恋愛オムニバス―  作者: ぽてと
夕立のバス停と、ファインダー越しの君

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78/90

第78話 夕立と、ピントの合わない感情(3)

トタン屋根を打ち据える暴力的な雨音が、僕の心臓の鼓動とリンクしているようにうるさかった。


「……嘘つけ」


僕の口から、自分でも驚くほど低くて硬い声が漏れた。

結衣が息を呑み、頭から被っていた僕の上着をギュッと握りしめる気配がした。


「痛くないわけないだろ。……インターハイ、もう絶望的だって聞いたぞ」


その言葉を口にした瞬間、結衣の顔から血の気が引いていくのがわかった。張り付けていた不自然な笑顔が、パラパラと音を立てて崩れ落ちていく。


「なんで……誰から……」

「誰からだっていい。神社で一人で、動かないストップウォッチを握りしめてたくせに……俺の前で、無理して笑ってんじゃねえよ」


僕は、傷ついている彼女にこれ以上ショックを与えたくないと思いながらも、口を突いて出る自分の不器用な言葉を止めることができなかった。


「走れなくても、お前はお前だろ。陸上が全部じゃない。だから、そんな痛々しい嘘の笑顔、もう俺の前で作らなくていいんだよ」


慰めたかった。

傷ついた彼女を、どうにかして安全な場所に引き戻したかった。それは僕なりの、精一杯の言葉だった。だが、僕のピントのずれた浅はかな優しさは、結衣にとって最悪の引き金でしかなかったのだ。


「……蒼太に、何がわかるの」


結衣の声は低く、震えていた。彼女は被っていた僕の上着をバサリとベンチに払い落とし、真っ直ぐに僕を睨みつけた。

その大きな瞳からは、ついにせきを切ったように大粒の涙がポロポロと溢れ出していた。


「陸上が全部じゃない? 走れなくても私? ……ふざけないでよ! 私は走るためにずっと頑張ってきたの! 来年の夏のために、毎日毎日、泥まみれになって……!」

「結衣……」

「ストップウォッチを見るたびに、もう二度とタイムが縮まらないって突きつけられる私の気持ちが、蒼太にわかる!? 目標がなくなったのに、どうやって笑えばいいのよ! カメラ下げて適当にヘラヘラしてる蒼太になんて、私の気持ちなんかわかるわけない!」


感情の決壊。

それは、僕がこれまで見て見ぬふりをしてきた、彼女の本当の絶望の形だった。痛いくらいの悲鳴となって吐き出されたその言葉に、僕は何も言い返せず、ただ立ち尽くすことしかできなかった。


ヒッ、ヒッ、としゃくりあげて泣く結衣の声と、雨音だけが狭いバス停に響き渡る。

僕がファインダー越しに守ろうとしていたものは、彼女の笑顔なんかじゃない。彼女の絶望に向き合うことから逃げていた、臆病な自分自身だったのだ。


不意に、トタン屋根を叩く音がスッと遠ざかった。

まるで嘘のように上空の黒い雲が割れ、通り雨が山の向こうへと去っていく。アスファルトの強い匂いとともに、西の空から強烈な夏の日差しが再び差し込んできた。


「……最悪」


結衣は袖口で乱暴に涙を拭うと、僕を置いて、一人でバス停の外へと飛び出していった。

遠くの空には、皮肉なほどに美しく、鮮やかな七色の虹がかかっている。

けれど、眩しいほどの光を取り戻した夏空の下で、僕と彼女の間に落ちた沈黙だけは、どうしようもなく冷たく、暗かった。


足元のベンチに取り残された僕の上着と、遠ざかっていく結衣の小さな背中。

不器用な感情がぶつかり合った結果、僕たちの間には、簡単には修復できない決定的な溝が、はっきりと刻み込まれていた。

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