第10話 孤独からの解放
「違う、、、お前は、、、ムクだ。」
P1169は、意味が分からずポカンとしていた。
A6939は、P1169を指差しながら繰り返した。
「お前は、、、ムクだ。」
P1169は、何かを理解したかのように頷き、叫びながら駆け回った。
「ムク、、、ムク、ムク、ムク、ムクっ!!」
それから、P1169はニコニコしながらA6939を指差した。
「私か、、、、、私はミクだ。」
「ミク、、。」
それを聞いたP1169の瞳は、またたく間に涙でいっぱいになった。
その時ムクは、永遠に続くと思っていた底知れぬ孤独という暗闇からの出口を、ついに発見したのだった。
P1169は完全な孤独の中にいた。
話す相手も、話しかける者もなく。
人間社会における、他者との比較に伴う相対的な孤独とは異なる、深遠なる孤独そのもの。
自分が何なのかさえ知らされない環境では、自己の認識すらあやふやだった。
ただ繰り返し襲ってくるのは、絶対的な暗闇、絶対的な恐怖、絶対的な孤独。
唯一の救済は、定期的に投与される薬物。
強力な薬物は、Pシリーズと呼ばれる者達の思考を奪っていった。
そして、恐怖は薬物の投与によりうやむやにされ、ほとんどの者は、恐怖より思考の放棄を選び自ら薬を望んだ。
しかし、P1169はそれに屈しなかった。
隙を見て薬物を吐き出し、トイレに捨てていた。
悲しかった、苦しかった、怖かった、それを訴えることさえ出来なかった。
それでも、絶対に屈しない。
内なる魂の叫びが、全てをうやむやにすることを拒んだのだ。
絶対的な孤独からの解放のきっかけを掴んだムクと、生まれたばかりで不安定なミクの自我は、互いを必要としていた。
監視カメラの死角で、ムクは地面に座ったミクの胸で泣いていた。
「ドッ、ドッ、ドッ、ドッ、ドッ、、、。」
ムクは、ミクの胸から響いている鼓動に気づき不思議そうにミクの顔を見上げた。
「あっ、それか、、それは、、真実の音だ。
安心しろ、リアル、本物だ。
悪くないだろ。」
そして、ムクは生まれて初めて母の鼓動を聞いたかのように、満ち足りた笑みを浮かべ、深い眠りについていったのだった。




