第7話 ちょっと本気だすおっさん、林藤
なーんか嫌な予感がした。
駆けつけた理由はただそれだけだった。
カッコつけた言い方をするならば、おっさんの勘。
まぁ、俺ぐらいの年齢になると常にあらゆる事象に対して嫌な予感がするし、将来への不安で胸がいっぱいなんだけど。
ダンジョン内は静かだった。ツキホたちがザコを蹴散らしてくれたおかげだろう。
道中、走って逃げてきたリュウセイを取っ捕まえて(転んで気を失っていた)、抱えながら最深部へ直行。
結果は案の定大ピンチ。とてもBランクとは思えないモンスターがいたわけだ。
とりあえず巨人に飛び蹴りをかます。
アキラは気絶。ツキホは……まだ無事か。
「大丈夫ですか」
「お、お父さん……?」
「違います」
こいつ、マジで俺のこと父親だと勘違いするんじゃあるまいな。
仮に俺が父親だとしたら俺は18でツキホを仕込んだことになるぞ。
そんな男に見えるのか。ちょっとショックだよ。
「お父さんなんですよね!!」
「ぜんぜん違います」
「じゃあ……パパ?」
「一緒でしょうがそれでは」
巨人も起き上がってしまった。
モタモタしている余裕はないな。
「ツキホさん、ここは俺が食い止めるので、アキラくんを連れて少しでも遠くへ逃げてください」
「え、でも……」
「君が残ったところで戦況は変わりません。俺が父親かどうか確かめたいのでしょうが、そんなことよりアキラくんの身の安全を優先すべきでは?」
「林藤さん、戦えるんですか?」
「俺も経験を重ねてきた男です。子供逃がす時間ぐらい作れます。ほら、早く!!」
「は、はい!!」
おぉ、いい返事。良い子だな、俺の心配をしてくれるなんて。
大人が子供の踏み台になるなんて、当たり前のことなのに。
ツキホは気絶しているアキラくんをお姫様抱っこすると、
「む、無茶はしないでください」
走り去っていった。
良い子なだけじゃなく、案外力持ちらしい。
さてと、2日連続の担当外業務だ。
千歳のやつに手当て請求してやらないとな。20万はよこせよな、クソババア。
「おい、起きろリュウセイ」
頬を叩き、無理やり起こす。
「んあ? へ? な、なんだこりゃあ!?」
腕の力を緩めて、リュウセイを地面に落とした。
「うぎゃっ!!」
「手を貸せ」
「お、おっさん!? ど、どうなってんだ?」
「いいから、何でも良いから剣を出せ。それくらいしか役に立たんのだから」
「なんだてめぇ!! 誰にタメ口使ってんだ!!」
ビビって逃げていたくせに急に元気になりやがって。
俺に舐められるのがそんなに気に入らないらしい。俺だってお前に舐められているのは気に入らないが、我慢してんのに。
悪いがお前に敬語を使うのはドライバーでいる間だ。
いまは違う。いまはーー剣士だ。
「またお前の手柄にしてやるから」
「は?」
「俺があの巨人を倒してやる。だからさっさと、剣を貸せ」
「巨人を? おっさんが? ていうかなんで俺、ここに戻ってんだ!?」
いまさらかよ。
鈍いやつだな。あぁいかん、子供相手にイライラしてもしょうがないだろ。
俺だって昔は熟練の戦士たちに小馬鹿にされてきたわけだし。俺はこいつと違ってどんな年上にも敬いの精神で接していたが。
「と、とにかく俺は逃げるぜ!!」
走り出そうとするリュウセイの腕を掴む。
「離せ……え、力つよ」
「リュウセイくんや、俺はあんまり子供に乱暴はしたくないんだ。頼むよ」
「うるせぇ!! 離しやがーー」
しょうがないので首を鷲掴みにする。
心配ないさ、軽く握っているだけだ、気道は刺激しちゃいない。
「いいだろ? ものは試しだ。ダメなら俺が情けなくぶん殴られるだけ。そうだろ?」
「…………」
「いいよな?」
リュウセイは目をかっ開いてコクコクと頷いた。
ようやく理解してくれたか、嬉しいよ。
リュウセイが適当な剣を創造した。うん、とりあえずこんなもんでいいか。
剣を握り、巨人と相対す。
「お、おっさん、本当にあんなの倒せんのか?」
「ん? あぁ、殺せるよ、普通に。ただーー」
俺は燃費が悪いから、このあと訪れる疲労感のほうが怖い。
巨人が俺に殴りかかる。
さすがの怪力、後方へと殴り飛ばされてしまった。
少し痛い。はぁ、やっぱり次の休日、スーパー銭湯からのマッサージで確定だな。
「おっさん……ピンピンしてやがる!! まさか、マジでスキルを持ってんのか!?」
それはどうかな。
少しおさらいをしよう。
スキルとは、厄災のときに漏れた異世界特有の自然エネルギー『マナ』に感化された者が得る力。
人体の構造が変化し、自らマナを生み出して発動できるようになった異能だ。
例えるならあの映画、なんだったか……ゴジラだ。ゴジラみたいなものである。
で、残念ながら俺にはスキルの素質はない。
しかしマナを取り込んで力にすることはできる。ていうか俺の故郷じゃこれが一般的である。そもそもスキル自体向こうじゃ一部の天才しか目覚めない力なのだ。
まぁ要は、俺みたいな凡人はマナを生み出せないぶん体内に蓄えて、それをエネルギー源として常人離れした身体能力を得るわけだ。
だからーー。
「リュウセイ、お前はいいスキルを持っている。お前が作る武器、割と上質だ。これなら壊れることはないだろう。大切にしろよ。それとーー」
巨人が走って距離を詰めてくる。
俺は剣を握り直すと、天に向けて掲げ、
「ここで見たことは他言無用だぞ」
振り下ろした。
ドンッ!!
眩い光を放つ巨大な斬撃派が剣から放出される。
それは巨人に回避を選択させる暇すら与えず飲み込み、対象を完全消滅させた。
だが、まだ止まらない。久しぶりで手加減しきれなかったようだ。斬撃は最後の扉をぶち破り、さらに奥へ。
この調子ならコアも破壊されるな。
リュウセイがあんぐりと口を大きく開けていた。
「ま、マジかよ……。おっさんに、こんな力が……」
「誇るもんじゃない。君らと違って特殊能力は持っていないし、器用でもないからな。それになにより、燃費が悪い。めまいがしてきた、クラクラする」
俺が戦えることが上層部にバレていないのは、スキルがないからだ。
彼らはスキルの有無しか判別できない。俺のこれは体質。だからバレていない。
「おいリュウセイ」
「は、はい!!」
おぉ、こいつあるまじき立派なお返事。
「約束通りこれもお前の手柄にしてやる。俺はドライバーでいたいからな。ただ、もし今後もツキホちゃんやアキラくんに迷惑をかけるなら…………まず右の睾丸から潰す」
「わ、わかりました!!」
「嘘だと舐められないように今ここで左を潰しておこう」
「え!?」
「ははは、冗談だよ」
ダンジョン内に異変が生じる。
まるでVRゴーグルを外したときのように景色がガラッと変貌し、俺たちの周囲をアスファルトとビル群が包んだ。
やはり、あのままコアのある部屋を丸ごと破壊しちゃったらしい。
辺りを見渡す。
神田川の近くだな。
「ツキホちゃんたちを探そうか」




