第37話 決着をつけるおっさん、林藤
いま、目の前にツキホがいる。
街の平和より俺を優先した(しかも車内に忍び込んでいた)勇者がいる。
相変わらず、真面目な優等生みたいな雰囲気を纏っておいて、一番頭がぶっ飛んでいる子だ。
「それでお父さん、私は何をすれば?」
「お父さんではないです」
懐かしいなこのやり取り。
何故だか今日に限っては妙に嬉しく感じるよ。
あの学校での戦いでもそうだった。
俺が本当にヤバいとき、必ずツキホが側に来てくれる。
娘とは思わんが、思わんなりに、愛着がわいてくる。
「俺はいま、かなり強い敵と戦っています」
「ドライバーなのに? やっぱり林藤さんはあのときの英雄さんで、私のお父さんだったんですね!!」
「うーん、じゃあもうそれでいいです。それでいいので、ツキホさんに大事なお願いがあります」
「私、あれから多少は強くなりました。囮ぐらいにはなれます!!」
俺に気づかず後部座席で身を潜めていたんだからな。
実力は上がっているのだろう。変な意味で。
さて林藤、ここでお前は選択しなくちゃいけない。
キモいおっさんとして死ぬか、もっとキモいおっさんとして賭けにでるか。
考えるまでもないがな。
「ツキホさん、俺がMAXの実力を発揮するためには、大量のマナが必要なんです」
「はい?」
「俺のことを父のように慕ってくれるなら……そのあと警察に通報してもらって構いませんし、慰謝料も言い値を払います。自決しろというのならします。なので」
「なので?」
「俺とキスをしてください」
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マンションへと戻る。
九海シウンは中庭で座り込んでいた。
「やはり戻ってきたな。聖女からは離れられないもんな。哀れなものだな異世界の戦士は。わざわざ死地に戻らねばならないとは」
緩慢とした動きで立ち上がる。
「まぁ、俺も多少休めたよ。同じ中年ならわかるだろう? 長時間の激しい運動はどうにも疲れる」
「第2ラウンドだ」
「どう足掻いても勝てやしない。潔く体を……よこせ!!」
シウンが銃を構える。
マナ弾を発射してくる。
俺はそれを最小限の動きで避け、斬撃派を放った。
避けられる。でもその間に一気に距離を詰められた。
「また同じことの繰り返しか?」
「そうかな」
再度行われる攻防。
だが先程よりも明らかに俺が押していた。
シウンが守りに徹している。
マナを補充したから? 違うね、端的に説明するならこれは経験の差だ。
こいつが異世界に飛ばされたのは6年前。いつ帰ってきたのかは知らないが、向こうでの生活は数年程度だろう。
それにスキルに目覚めるまではただの一般人。
一方俺は生まれてから大人になるまで、ずっと戦い続けてきた。
ただがむしゃらに生存するためじゃない。魔王を倒す使命のため、自ら強敵に挑み、挑み、挑み挑み挑み殺してきた。
それが当たり前の人生だった。
シウンの顔が青ざめていく。
「な、なんだ? さっきとは動きが」
「はっきり言おう。お前の動きはもう見切った」
さっきはエネルギー源であるマナが足りなかったから撤退したにすぎない。
きっとこいつは生き残るのに必死で、無駄な戦いは避けてきたのだろう。自分より遥かに強い敵を殺そうなんて考えもしなかったのだろう。
その差がここに来て顕れたわけだ。
「お前は強いよ。この世界で一番強い」
「くっ」
「俺のいない世界ならな」
まず右腕を切断する。
シウンの注意が右腕に向いている間に左腕も切る。
次に両足。
「さぁ、スキルを使えよ。治してみせろよ。修復したところからまた切っていく。何度も、何度もな。安心しろ、殺しはしない」
「バ、バカな……」
「一つ聞いておく。どうやって異世界からモンスターを召喚している。お前のスキルでは不可能なはずだ」
「言えばお前は俺を殺す」
「言わないなら殺す。教えろ、場合によっては俺にとっても利用価値があるかもしれない。俺は向こうに帰りたいからな」
数秒のためらいの後、シウンが語った。
「お、俺の臓器は魔王の遺体を結合したものだ。偶然、こっちの世界で発見した」
「なるほど。まだ持っているか?」
「いや、二つ以上は肉体が保たないから、例の学校で実験に使った。強力なモンスターを使役したかったから」
確かこいつはあらゆる恐怖を支配したいのだったな。
恐れるのではなく、恐れられる存在になるために。それもこれも極端な生存本能によるものか。
「ならばやはり殺す」
「ふざけるな!! 話が違う!!」
魔王の遺体はすべて消すのが俺の本来の仕事なんだよ。
わかるよな? 嘘と汚れ仕事はおっさんが背負う業なんだよ。
悪いな、シグレ、シズク。俺は情けないドライバーである前に、戦士なんだ。
「お、俺には利用価値がある!!」
「いや、もういい。お前を活かしておくと面倒そうだ。俺は構わん、ここでも生活も、少しは楽しんでいるしな」
「待て!! 待ってくれ!! こんなところで死ぬわけにはいかない。俺は、俺の命には嫁の命も乗っかっているんだ。でなければ、あのとき嫁を盗賊に売った意味がなくなる!! あいつのためにもーー」
警棒にマナを溜め、一気に振り下ろす。
シウンの肉体を飲み込むほどの巨大な斬撃派が、彼の細胞をすべて消し去った。
「ふぅ……」
あとは千歳を回収するだけだな。
なのにーーあぁくそっ、足が重い。肩が上がらん。
久しぶりに無茶をし過ぎた。
すまん千歳、少し休憩させてくれ。
まったく老いというのは残酷なものだ。
「林藤さーん!!」
ツキホがやってきた。
「お、終わったんですか?」
「えぇ。すみません、助かりました。本当に。千歳を助けたらなんでもツキホさんの指示に従います」
「では」
頬を赤らめながら、ツキホが笑った。
「今度一緒に寝てください。親子として、同じベッドで」
「…………ははっ」
「?」
俺からしたらシウンよりよっぽど手強いよ、ツキホは。




