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現代勇者協会の送迎係のおっさんは異世界帰りで元最強剣士 ーー知らない世界で病んじゃったので慎ましく生きる……予定でしたーー  作者: いくかいおう


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第38話 やっぱりうだつの上がらないおっさん、林道

 拘束されていた千歳がどのような状態だったのか、語れるほどの器は俺にはない。

 聖女と同じ存在になろうとしたシウンの手によって、かなり手酷く実験されたのだろうとしか言えない。

 だが彼女は聖女だ。魔王クラスの敵に魂ごと消滅させられない限り、聖女は死なない。それに自己治癒力も高いから、病院で安静にしていれば半年以内には元通りの高慢ちき女へと復活を遂げるだろう。


 千歳を救出したあと、俺は勇者協会本部へと急ぎ、残るモンスターをすべて片付けた。マナは足りたのかって? 詳細は省くがツキホが隣りにいた。

 結果としてはシュートを捉えることはできなかったが、とにかく、今回の騒動はどうにか沈静化できたわけである。


 それから二日後。


「ご苦労だったな、林道」


 協会運営の病院の個室ふかふかソファとでっけーテレビつきのベッドから、千歳が俺に告げた。


「なーんでもう五体満足なんだよ。回復速すぎるだろ。結構悲惨な感じだっただろ」


「私を侮るなよ。それより、上には報告したのか? シウンのこと」


「してない。俺はただの冴えないおっさんドライバーだからな」


 あの日、たまたま個人的に電話番号を交換していた千歳から助けを求められた。

 千歳も瀕死の状態だったから、混乱して俺に連絡したのだろう。

 マンションには誰もいなかった。きっと本部襲撃で出払っていたに違いない。

 ということにしている。


 中庭に激闘の跡? なんのことですかねぇ、きっと老朽化で崩れたんじゃない?


「千歳は知っていたのか? あいつがシウンだってこと」


「私も捕まってから知った」


「てっきり改心させるためにわざと連行されたのかと思ったよ」


「私はただ、シグレを蛮勇から引き離したかっただけさ。あの一家は、私がこっちに来てからよく世話になっていたからな」


「どうやってあいつと奥さんを異世界に送ったんだ。何故黙っていた」


 千歳はベッドから起き上がると棚から白ワインを取り出した。

 病院だってのに。

 グラスに酒を注ぎ、タバコに火を付ける。

 いくら協会の病院だからって自由すぎるだろこの聖女。


「魔王の遺体を一つ使えば、お前を異世界に帰せる」


「お前な……」


「だがこの世界にはお前が必要だ。すべての遺体を回収し、向こうとの繋がりが完全に途絶えるまで。蛮勇どもだけなら勇者だけでもどうにかなる」


「あっそ」


「不満か?」


「先週までだったらな。でもいまは……それでもいい」


「ほう? ずいぶんな心境の変化だな」


「やらなくちゃならんことが増えちまったんだ」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 家に帰ると、シグレがキッチンに立って夕食の準備をしていた。

 彼女はまだ俺の家にいる。あの日、モンスターと共に街で暴れた蛮勇はあらかた逮捕したが、彼女は別である。

 というかまだどうするか決まっていないというのが正しい立場か。

 戦いからまだ二日しか経過していないから、俺も千歳も、シグレ本人も、今後について考える余裕がないのだ。


「おかえりなさい」


「はい」


 彼女にはシウンのことは話していない。

 話す気もない。不誠実なのかもしれないが、隠しておくべき真実というものもある。


「シグレさん、大事なお話があります」


「な、なによ改まって」


 シグレはコンロの火を消すと、緊張した面持ちでダイニングの床に座った。

 協会に存在がバレたので施設送りか、とか心配しているのかもしれない。


「千歳が新しい名前を用意してくれます。勇者になってください」


「……は?」


「というか、千歳の庇護下に入ってください。もちろん俺もあなたの面倒は見ます」


 父親を殺しちまったからな、こいつの。

 そのケジメなのさ、これはな。


「ふざけんじゃないわよ。私は蛮勇よ。勇者になんかーー」


「一生をあなたに捧げるつもりでいます」


「へ?」


「父親代わりになろうとか、見返りが欲しいとか、そういうんじゃありません。ただ個人的に、無報酬で、あなたを陰ながら支えていたいわけです」


「な、な、なによいきなり!!」


「いろいろあったんです」


 シグレは頬を赤くすると、目のやり場に困ったようにキョロキョロと忙しなく周囲を視線を見渡した。

 すぐに答えがでる問題ではないだろう。


「そ、そんなこといきなり言われても……なんなのよ、なんなのよもう!!」


「なので、勇者として俺の近くにいてくれると助かります」


「……じゃあ、一つ条件をだしてあげるわ」


「なんでしょう」


「一つ、千歳とあんた以外の人間の指示は受けない」


「ほう」


「もう一つ」


 二つじゃねえかよ。


「これからもここで暮らす」


「え」


「なによ。一生を捧げるんでしょ」


「あーいや、それはどうなんでしょう。さすがに」


「じゃあこの話はなかったことにしましょう」


 えぇ……。

 さすがにこの狭っ苦しい六畳一間で二人暮らしは無理でしょ。

 ていうか広さの問題でもない。勇者になるんだから勇者の女子寮に妹と住めばいいだろう。


 呼び鈴が鳴った。

 誰かが来たらしい。

 玄関扉を開けると、そこには、


「お父さん、来ちゃいました」


「ツキホさん……」


 どうしてこう最悪のタイミングで。

 まさか一緒になる約束を〜、とか言い出さないよな。


「一緒に寝る約束を果たしにきました」


「いや、あの、待ってください。それどころじゃないんです。マジでそれどころじゃないんです」


 とツキホを追い出そうとしたとき、


「ちょっとあんた、どういうことよ」


 怒り心頭なシグレが、俺の背後に立った。


「あんたやっぱりいろんな女に手を出して!!」


「違います」


「そこの女、残念だけどこのおっさんは私とここで暮らしているの。帰りなさい」


 お前も余計なことを喋るな。


「一緒に!? ふ、ふざけないでください!! 林道さんは私のお父さんなんです。林道さんと一緒に暮らす権利を持つのは娘である私だけです!!」


「私にとってもパパよ!! パパになるってさっき誓ってくれたわ」


 誓ってない。

 お願いだからせめて声のボリュームを下げてくれ。


「林道さん!!」


「おっさん!!」


「「どっちが娘なんですか(なのよ)!!」」


 あぁ〜、故郷に帰りたい。

 胃が痛い。頭も痛くなってきた。


 俺は勇者協会のドライバー、それ以上でもそれ以下でもないのだ。

 ないであってほしい。


「あまりおっさんをイジメないでくれ……」

キリがいいのでここで終わりとします!!

学校での戦いで終わらせるつもりが、なんだかんだ倍以上伸びちゃって。

でも可愛いシグレちゃんを書けたので満足です。


ありがとうございました。

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