第34話 煽られるおっさん、林藤
翌早朝、俺は一足先に起床して協会本部へ向かった。
シグレはまだ寝ていたので、『適当にご飯を食べて待っていてください』と書き置きを残しておいた。
本部ビルに到着し、ドライバーの待機室へ。
俺専用の個室にあるパソコンを起動する。
職員用のパソコンからでないと入れないファイルサーバーがあり、そこに勇者関連のあらゆる記録が保存されているのだ。
といっても、あくまでも職員の勉強及び共通認識を得るためのデータベースであり、協会にとって不都合な(隠しておきたい)情報は記載されていない。
「パソコンでの調べごとは苦手だが……」
ログインパスワードを打ち込む。
夜勤の俺がこんな時間に何を調べているのか。
行動のログはすべて筒抜けであろうが、気にしていられない。
「まずは6年前の記録からいくか」
マウスを操作してシグレの両親が異世界送りになった記録を探す。
が、ない。やはりない。
九海夫婦が最初の勇者で、協会の創立メンバーであることは書かれていても、それ以上はなにも得られなかった。
千歳がいつ幹部になったのかも、当然なかった。
「ならば……」
シュート・クリアクリーンJrについて検索する。
やつの唯一の失態は、自分語りをしすぎたところだ。
俺と意気投合して、うっかり口を滑らせたのだろう。
「あった」
スキル持ちと思しき男性、シュート・クリアクリーンJr失踪という記録。
いろいろ書いてあるな。祖母も警察に捜索願いを出しているらしい。
その祖母の所在地は……横浜か。細かく住所まで書かれている。
このことを、シュートは知っているのだろうか。
ええい、考えても埒が明かない。とりあえず会いに行ってみよう。
車を運転していれば、ふと良いアイデアが思いつくかもしれないし。
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とりあえずシグレを同行させて、車で横浜まで向かう。
「ねぇ、ちょっと疑問なんだけど」
「なんですか?」
「あんたってどのくらい強いの? 勇者協会で最強?」
「余裕で全員ブチのめせると思いますよ。マナさえ充分なら」
「すごい自信ね。ワタシですら謙虚に無理だって思うのに」
スキル頼りだからだろう。
他の連中もそうだ。スキルを発動すればいいと思っている。
戦い方が下手なのだ。例えSランク勇者であっても。
ギャルトリオはかなり良い線行っているが、人間同士による本気の殺し合いとなれば話は別だ。
「じゃああんた一人で壊滅させられるってわけ?」
「上層部の人間だけを狙い撃ちにすればいいのであれば……うーん、そもそも上層部メンバーを全員把握しているわけじゃないですし、全員もしくは協会のトップが常に本部にいるとは思えませんし、現実的ではないですね」
「ふーん」
「質問の意図は?」
「仮に例のフード野郎があんたと同じ強さだったとしてさ、シュートの頭脳が合わされば簡単に協会をぶっ壊せるんじゃないかって」
確かに、言われてみればそうだ。
フード野郎が俺と同じタイプだとしても、彼にマナを供給する蛮勇ならいくらでもいるだろう。それこそ、部下を使えばいい。見たくはないけど。
そこに最が頭の良いらしいシュートが加わればもしくは……。
「そもそもあなたたちはどういう計画を練っていたんです?」
「基本的には人材発掘と勇者狩りよ。その裏でシュートはモンスターの使役を試みていたわ」
「使役?」
「あのフード野郎、モンスターを呼び出せるんですって」
前に学校で強力な人型モンスターと戦った。
本来ゲートを通れない強いモンスターだったのに、こっちの世界に来た。
それもやつの仕業だったのか。魔王の遺体を利用すれば、不可能ではないか。
「変ですね。シュートはフード野郎の強さを知らなかったのでしょうか。そもそもフード野郎の狙いは、本当に協会の崩壊なのか? 千歳をさらった理由も、そこにあるのか……」
「なんにせよ、ブレインであるシュートを先に潰したいわね」
「ですね」
横浜までまだだいぶ掛かりそうだ。
ついでだから一つ疑問を投げかけてみる。
「シグレさんは人を殺したことはありますか?」
「は?」
「この際嘘はつかなくていいです。俺はありますよ。平和のために、生きるために」
もちろん故郷の世界での話だ。
この世界以上に弱肉強食だったからな。
少し黙ったあと、シグレが答えた。
「ザコは殺さないわよ。シズクのお手本にならないもの」
「ザコは?」
「ワタシが殺すのはお父さんとお母さんを異世界に送った今の上層部。絶対に許さない」
協会の幹部が蛮勇に殺された、なんてニュースは一度も耳にしていない。
いまのところは。
横浜市の郊外にある一軒家にたどり着いた。
「ちっ」
空き家になっていた。
しょうがない。近隣住民に聞き込みしよう。
そう思考した直後、俺のスマホに着信が入った。
相手は非通知であった。
詐欺やセールスか? にしては、タイミングが良すぎる。
恐る恐る応答する。
『この私を出し抜けるはずがないでしょう』
シュートの声だった。
『力の勝負ならともかく、頭の勝負でこの私に勝てるものなどいない。そういうスキルですからねぇ』
「俺が唯一勝てないスキル持ちかもなお前。おめでとう」
『あなたやシグレのような単純さんが考えることなど、ぜんぶお見通しです』
「煽るためにわざわざ電話をかけてきたのか」
『いいえ。どのみちニュース速報で知ることになるので、この私から伝えようかと』
「は?」
『協会本部周辺にSランク……いやSSランク相当のモンスターたちを召喚しました。この私も数を把握していないほどにね』
こいつ……。
『くくく、パレードの開幕ですよ』
大急ぎで引き返してみんなを助けなくては。
優秀な勇者ならいくらでもいるだろうが、被害は最小限に留めたい。
シュートとの通話を切ろうとした瞬間、俺の脳内にシグナルが届いた。
不意に北の方角を見上げる。
あっちに、いる。
『おやおや、どうしました?』
ドクドクと血が高揚する。
頭の中があの女のことでいっぱいになる。
千歳からの救援要請だ。よりにもよって、こんなタイミングで。
『どうしたのですか? 本部に戻らないのですか?』
あざ笑うシュートの声。
無理だ、シグナルが続く限り、俺は千歳の救出を優先しなくてはならない。
くそがっ!!
「お前らをぶっ潰して幕引きにしてやる。覚悟しておけ!!」
本気になった中年戦士を舐めるなよ。




