第30話 ちょっと怒るおっさん、林藤
蛮勇との接触、千歳とシグレの交換。
勇者協会はどこまで事態を把握するのだろう。
俺がいたこと、そして彼女を匿っていることまでたどり着かれると厄介だな。
とくにーー。
「おじさま〜ん♡♡ 汗かいてるんだしぃ、ウチとシャワー浴びようよ〜」
「はぁ? おっちゃん汗の匂い消してどうすんの。おっちゃん服脱げ、男臭い胸板を嗅がせろ〜」
「林藤ちゃん。わたしとお姉ちゃん、どっちに脱がせて欲しい?」
この小娘どもが俺の部屋で大暴れしていることは特に。
新入りギャルのシグレが、まーたーも青筋立てて激昂する。
「あんたね、あんだけカッコつけたこと抜かしておいて、結局未成年との不純異性交遊を嗜む変態オヤジだったんじゃない!!」
みたいな反応を世間一般の方々もしてしまうので、公にされるとマズいのだ。
あとね、違うんですよ。
未成年との不純異性交遊を嗜む変態オヤジじゃないんですよ。
不純異性交遊を企む変態未成年たちに囲まれている汗臭いおっさんなんですよ。
「あ〜、えっと、とりあえず一旦解散しましょう。騒がしすぎて隣人からクレームがきます。冴えない独身男性ばっかりなので女性の声に敏感なんです。ですが、申し訳ないですがシグレさんはしばらくこの家から離れないでください」
「は?」
「あなたがいることは誰にもバレたくないんです。少なくとも、数日は。着替え等はシズクさんたちに用意してもらいますし、俺も地下駐車場の車で寝ます」
「だったらシズクの寮に泊まればいいじゃない」
「女性寮はありとあらゆるところに監視カメラが設置されているんです。たとえ顔を隠しても、部屋に入ったのにまったく出ない、もしくは何回も出入りしていると目をつけられます。それに比べて男性職員寮は……一般的です。デリヘルを呼んでる人も大勢いますから。あっ、失礼」
「関係ないわワタシには。そもそもあんたに協力するつもりもない。まず、勝手にワタシを売ったあいつらをぶっ飛ばす。次にワタシが蛮勇のリーダーになり、シズクたちも仲間にして勇者協会をぶっ壊すわ。じゃあね」
「ちょっ」
まったく、いい加減状況を理解してキーキー騒ぐのはやめてほしい。
シグレは最後にもう一度シズクに目配せをすると、俺の部屋からでていった。
妹にはぜひ止めてほしかったが、どうやら姉妹愛は強固なれど基本不干渉らしい。
とうぜん追いかけるが、例の透明な壁に阻まれる。
あー、壊すのは容易いが、体内のマナを消費したくはない。
シグレが寮から出ていく。
顔を晒して。
協会が保有している広大な敷地からでたところで、
「シグレさん!!」
どこからか若い男ふたりが近づいてきた。
十中八九蛮勇の仲間。おそらく、シュートに指示されてついてきたな。
だがカメラ等を気にして寮に襲撃をかけたりはしなかったのだろう。
「あんた達!! 迎えに来てくれたのね!!」
「俺たちはシグレ姐さんの味方っす!! どこまでもついていくっす!!」
「クヒヒ、しょうがない連中ね。さっさといきましょう。ずっとあそこのおっさんがついてきて、うんざりしているんだから」
「そうですね。じゃあーー」
はぁ、つくづくため息がもれる。
しょうがない。ここは少し、大人として厳しく接するか。
いつまでもこの子のわがままに振り回されてやれるほど、時間に余裕はない。
「シグレさん」
「なによ」
シグレが俺の方を振り返る。
その視線の移動に合わせて、すれ違うようにシグレを追い抜く。
そして男たちに接近し、マナを込めた足でふたりを蹴り飛ばして気絶させた。
あとで不審者として通報しておこう。
「なっ」
「俺が見えなかったでしょ。あなたのスキルは強力ですが、隙を突くぐらい造作もない」
「なにすーーあれ?」
シグレが座り込む。
突然筋力が抜け落ちたように、ペタリと。
「まさかあなた、本当に彼らがあなたについてきたと思いましたか? そんなわけないでしょ。彼らは明らかにシュートに指示されてここまで来た。何故か。あなたを排除するためですよ」
「い、いったい……」
「千歳が結ぶ契約はかなり強力でしてね、破れば相応の罰を受ける。例のフードの男は、金輪際あなたと接触しないという契約をかわした。なのに、当のあなたは何をしでかすかわからない問題児。それに蛮勇側の情報も漏れる可能性だってある。ならばどうするか……」
「ね、ねむ……」
「気づきましたか? 彼らのひとりがスキルを発動したのを。わずかに強張った表情、気の揺らぎ、マナの活性化。特訓すればわかるようになります。でもあなたは気づかなかった。そしてまんまと、スキルの餌食になった。自慢の壁をだす前にね」
おそらく毒系統のスキルなのだろう。
不可視の毒を散布するとは、悪くないスキルだがモンスターには通用しないかもしな。
野生のモンスターはそういうのに敏感だから。
「いいですか、一度しか言わないのでしっかりと聞いていてください」
「…………」
「いつまでも自分が物事の中心にいると思うな。お前なぞ、俺からしたらたいしたことのない小娘。二度と俺の邪魔をするな」
「う、うぅ……」
シグレの瞳からポロポロ涙がこぼれる。
親は協会に裏切られ、自分も仲間から捨てられた。
これほどの屈辱はないだろう。
「でも、大事な知り合いに託されていますから、しばらく面倒はみます。帰りましょう、俺の家に」
シグレは自身の腕で涙を拭うと、
「はい」
素直に頷いてくれた。




