第29話 昔話を聞くおっさん、林藤
俺に語り聞かせてくれたのはミワだった。
この子はギャルたちの中でも少し引いた位置から物事を見ているから、おそらく掘り起こされる過去は客観的なものだろう。
俺は部屋の隅っこで小さくなりながら、黙って聞く。
それは俺が送迎ドライバーをやる前のこと。
この世界に来て、とりあえず工事現場の仕事をやっていた時期の話だ。
シグレとシズク、ふたりの両親は最初の勇者だった。
正確には勇者という呼称が使われる前から存在した、異能者。
俺も千歳から話は聞いていた。確か……九海夫婦。
メディアも注目していたらしいが、当時の俺はテレビも携帯も持っていなかったから、顔も声も知らない。
彼らは戦った。モンスターやダンジョンから人々を守るため。
まだ勇者協会なんて設立していなかったころから。
次第に仲間が増えていった。きちんと組織化され、国とも連携を取り、いまの勇者協会を築き上げたのだ。
千歳がどのタイミングでふたりに接触したのか、あいつは教えてくれなかった。
だが間違いなく勇者協会の設立には噛んでいるはずだ。
それから数ヶ月。
最初の厄災から4年。
俺が最初のうつ病を発症し、酒とタバコだけが唯一の理解者だったころ。
勇者が一般人を殺害した。
任務中の事故による業務上過失致死であったが、タイミングが悪すぎた。
直近で、勇者ではないスキル持ちの私欲による大量殺人事件が発生したばかりだったのだ
世間のスキル持ちに対する視線が厳しくなった中での、過失致死。
それも、本当にただの過失だったのか怪しい曖昧な死亡事故だった。
勇者協会への批判が殺到。
協会は謝罪をするだけに留まらず、評価を覆す何かが必要だった。
「そこで白羽の矢が立ったのが、異世界調査だったんだよ、おっちゃん」
「異世界調査?」
協会の顔であった九海夫婦を異世界に送り、調査をさせる。
人類が月に降り立つよりも困難で危険で偉大なミッション。
方法は定かではないが、協会は夫婦を送ったのだ。笑顔で手を振って。
「異世界に行けるなんて聞いたことがなかった。千歳のやつ、何も言わないで。それで? どうなった?」
「終わり」
「は?」
「終わりだよ。ふたりは帰ってこなかった」
そりゃあそうだろう。
たとえスキルがあろうが、ふたりは聖女でも魔王でもない。
世界を渡る術など、ありはしないはずなのだ。
シグレが落ち着いた口調で続ける。
「協会は、パパとママを捨てたのよ。誰よりも早く勇者として命を張っていたふたりを。それに、一般人共だってカスばっかり。結局嫉妬しているのよ。ワタシたちが強いから。だから叩く口実を得たら無関係な勇者であろうと叩くのよ。気持ち悪い」
それが彼女が蛮勇になった理由。
「なのにシズクったら、まだあいつの下で勇者なんかやっちゃって」
「え〜、だってわたしみんなを恨むよりみんなを助けるほうが好きだし〜。友達とも一緒にいたい」
「もう……」
と不満をたれつつも嬉しそうなお姉さん。
妹が良い子でよかったな。
その良い子な妹、シズクが俺に問いかける。
「んで、林藤ちゃん。どうすんの」
「どうするとは」
「わたしたちの話を聞いて、どうすんの?」
「やることは変わりませんよ。あなたたち姉妹にとっても特別で、俺にとっても……まぁ腐れ縁な女を助け出します」
異世界に帰る手段も知りたいしな。




