第28話 占拠されるおっさん、林藤
追いかける。
速歩きでアスファルトを踏みつけるシグレを追いかける。
「待ってください、ちょっと」
「ついてこないでよ変態!! 警察に通報されたいの!?」
「して困るのはあなたですよ。俺は変質者で済みますけど、あなたは蛮勇だってバレるんじゃないですか」
「ふんっ」
それでいったい、彼女は千歳の何なのだ。
なぜ勇者を恨んでいるのだ。
おおかた予想はついているが、しっかりとした確証がほしい。
シグレがぐんぐんと離れていく。
追いつくのも疲れるのに、継続的についていくのは困難極まれる。
35歳の足はギリ女子小学生に勝てるぐらいなんだよ。中学生以上には余裕で負けるんだよ。
「許さない、どいつもこいつも。こうなったらワタシひとりで……」
「千歳の契約は絶対です。俺から離れないでください」
「バカじゃないの。ワタシはその契約をしたくないからあそこから立ち去っているのよ。……そうだ!! 契約よ、シュートたちはワタシに関われなくなった。だったら無理やりにでも接触して契約違反にしてやればいいのよ。このワタシを侮った報いを受けさせてやるわ」
とか楽しそうに語ると今度は引き換えした。
このクソガキ……。
おそらくデート中には平気で彼氏を振り回すタイプなのだろう。
倉庫に戻ってみると、すでに誰もいなかった。
迅速な退去。車に乗ってとっとと別のアジトへ向かったか。
「ちっ」
だから倉庫から離れなければよかったのに。
ため息をつくと、スマホの着信音が聞こえてきた。シグレの方からだった。
彼女はスマホを取り出すと、
「はぁ?」
電話にでた。
「もしもし……どうしたのよ。え? はぁ? まったく、わかったわよ」
と思いきやスマホを俺に差し出してきた。
えぇ〜。実は俺、スマホって苦手なんだよな。社用携帯もガラケーだし。
ていうか誰からなのか。蛮勇の仲間? シュートか?
「もしもし」
『林藤ちゃん?』
聞き覚えのある声。ギャルトリオのダウナー担当、シズクであった。
「シズクさん!? な、なんで?」
『ぜーんぶ聞いてたよん。千歳さん、ずっと通話状態にしてたから』
そんなことをしていたのかあいつ。
味方ながら油断のならない女だ。
だがどうしてシズクに? 協会のお偉いさんではなく?
決まっている。シグレが絡んでいるからだ。
シグレは協会と確執がある。だから唯一の関係者であるシズクに、通話を繋げていたのだろう。
『一回作戦会議しよーよ。林藤ちゃんがやること、決まっているんでしょ?』
「はい、千歳を救出します」
『林藤ちゃんがヤる子は決まってるの?』
「まずあなたをセクハラで訴えるところからはじめましょうか」
姉のシグレが不機嫌な顔をしている。
眼の前で恋人が寝取られているかのような、怒り心頭を通り越した閻魔の如き歪んだ表情だった。
さっさと話を切り上げよう。
「どこで落ち合いましょう」
『林藤ちゃんの家』
「はい?」
『いま林藤ちゃんの家にいるよ。……みんな』
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いた。
本当にいた。
俺の家に。
一人暮らし用の狭い家の、一人暮らし用の小さなテーブルにピザとジュースを広げていた。
あのギャルトリオが。
「な、なんでいるんですか……」
俺の疑問に誰かが答える前に、俺の後ろにいたシグレが吠える。
「どういうことよ、これは」
「それを知りたいのは俺の方です」
「そうか、女子寮は原則男子禁制。けどドライバーを含めた事務職員の寮は異性の侵入を禁じていない。……だからあんたは!! シズクだけに留まらずミワやルイナまで……」
「なるほど、そんな裏技があったんですねー。って違うんですよ。俺も若者三名による住居侵入に困惑して震えが止まらないんです。心臓がバクバクしすぎて病院送りになりそうですよ」
ていうか知っていたんだな、ミワやルイナのことも。
それに詳しいな、協会のルールについても。
ルイナが俺の腕に抱きついてくる。
「とりあえず座りなよ、おじさま〜」
「座るスペースなんかもうないです」
「じゃあ、ウチがおじさまの上に座る〜」
すまん千歳、助けてやりたいのは山々だが、無理そうだ。
誰もいない(主にこの子たち)静かな田舎で余生を過ごしたくなってきた。
いますぐに。
金髪ギャルのミワがシグレに問う。
「おっさんを巻き込んでいる以上、さすがに昔のこと教えてあげないとと思ってさ、シズクは教えるつもりだけど、いいのシグさん」
「…………好きにすれば」
「んじゃ、おっちゃんにも教えちゃおうか。ちょっと昔のこと」




