第27話 形勢逆転されちゃったおっさん、林藤
千歳からのエネルギー補充(タバコの煙を吹きかける)によって、戦える状態になった。
シュートは明らかに戦闘向きじゃない。シグレも雑魚。ならば勝敗は決したか。
「この程度でワタシに勝てると思うんじゃないわよ!!」
シグレがさらに激昂する。
が、脅威ではない。
彼女の透明な壁は、確かに目視することはできないが感知することはできる。
あのスキルはシグレを中心に、透明な壁を展開・放出している。
その際に生じる空気の流れ、変化を察知すれば、自ずと壁が見えるようになるわけだ。
斬撃で壁を破壊して、一気に距離を詰める。
そのまま首根っこを掴み、
「動くな。動けば首の骨を折る。スキルを発動しても折る。喋っても折る」
脅して黙らせた。
さすがの高飛車娘も敗色を覆すのは無理だと察したようで、
「くっ……」
涙目で頷いた。
千歳がシュートを睨んだ。
「さ、どうするメガネくん」
危機的状況。
なのにシュートは腕時計を確認するばかりで、焦りがみえてこない。
「確かにピンチですけど、そちらも暴力で解決したくないのでしょう。なにがなんでもこの私と契約がしたい。何故なら、契約とやらがもつ強制力でシグレを縛りたいから。ですよね?」
「殴って無理やり結ばせてもいいんだが」
「その必要はありません。さっきも言ったでしょう。迎えが来ると。念の為来るようにお願いしておいたんですよ」
「…………」
「こちらの奥の手です」
空き倉庫の裏手口の扉が開く。
誰かが入ってくる。
フードを被った二足歩行の生き物。
あの学校で魔王の腕を投げた、やつだ。
「だから俺が来るまで刺激するなと忠告しただろう、シュート」
「申し訳ありません」
なんだ、こいつの悍ましい気配。
人じゃない。でもモンスターでもない。
千歳も顔をしかめている。
「それで、具体的になどうなってる」
シュートが語る。
契約のこと、俺がシグレを真正面から倒したこと。
フード野郎が口を開く。
「そうか。ならば契約の内容を変更しようーーーーシグレはくれてやる」
喋るな、と命じたのにシグレが反射的に声をもらした。
「だが代わりに要求するのは千歳の記憶ではない。千歳自身だ」
「私が口が硬いぞ」
「構わん。どのみちお前の記憶を脳にぶち込んだところで、シュートの脳でも処理しきれずパンクする。だろう? 何百年も生きているんだから」
どうしてそこまでわかるんだ、こいつ。
何者なんだ。異世界人? 魔王の部下?
「今後俺たちはシグレと間接的にも接触しないし、シグレがそこの男から離れなくなるのも構わない。だから千歳も協会との一切の接触を禁じ、俺かシュートから離れないでもらう。それでいいか?」
「それでは釣り合わないな、急に出てきて主導権を握ってはいるが、キサマは何者だ? 正体と目的を話せ」
「目的か、そうだな。端的に説明するならーー」
途端、シグレが俺を跳ね除け飛び起きた。
マズった、油断した。
しかしシグレの標的は俺でも千歳でもない、あのフード野郎だ。
「ワタシを支配するんじゃないわよ!!」
フード野郎が懐から拳銃を取り出した。
あんなものではシグレを倒せないはずだが。
「命の保証をしてやるだけありがたいと思え」
銃口からエネルギーの塊を放出し、シグレの壁を突き破った。
アレは、間違いない。マナだ。
俺の斬撃波と同じ、マナの塊だ。
シグレの前に立ち、鉄パイプでマナ弾をはじいた。
それと同時、倉庫のシャッターをぶち破って部下と思しき連中がぞろぞろと集まってきた。
それだけじゃない。小型のモンスターまで。
なぜモンスターが人間に従っている。
千歳が俺にささやく。
「シグレを任せたぞ」
「いいや千歳、いまここで俺にキスでもしてマナをよこせ。全滅させてやる」
「落ち着け林藤。私がわざわざここに来たのはすべてシグレを安全な場所に移すためだ。ここで争うな」
「……まさか隠し子ですとか言わないよな、あの子」
「私と坊やの子供かもしれないな」
それだと妹のシズクも俺の子供ってことになるだろうが。
千歳はなんとしてでも契約を成立させて、シグレを蛮勇たちから引き離すつもりでいる。
代償として千歳がやつらの手に落ちる。
この、得体の知れないフード野郎の手に。
「安心しろ坊や、魔王に連れ去られてもピンピンしていただろう、私は」
「…………」
「私は、命に変えてもその子を救ってやらなくてはならない。ここを戦場にするな。私なら大丈夫だ。むしろ、やつらの正体を探る良い機会だ。私を侮りなよ坊や。人間なんぞのいいようにはされん」
「そうかよ」
それがお前の望みなら、尊重してやるよ。
こいつを殺せるのは魔王ぐらいだしな。
千歳がフード野郎に手を差し伸べる。
「契約を交わそう」
手の甲に魔法陣が浮かぶ。
その手をフード野郎が掴む。
「さぁシグレも私の手を取れ」
「そんなの……嫌に決まってるでしょ!!」
シグレが走り去っていく。
しょうがない。千歳の頼みだ。もう少しあの子の面倒を見てやるか。
俺は最後に千歳を一瞥し、彼女を追いかけた。




