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現代勇者協会の送迎係のおっさんは異世界帰りで元最強剣士 ーー知らない世界で病んじゃったので慎ましく生きる……予定でしたーー  作者: いくかいおう


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第25話 シンプルにやらかしたおっさん、林藤

※まえがき

途中まで三人称です。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 千歳が水族館を訪れたのは、本当にただの偶然だった。

 故郷にはなかった、生きた水生生物たちの博物館。暗くて静かな雰囲気も、千歳は好きだった。

 なによりここは、ずっと気にかけていた少女とよく訪れていた場所だった。


「私もあれから出世した。戻る気はないか? シグレ」


「冗談はやめてよ。しょせん飼い犬としてのランクがあがっただけでしょ」


「シズクのチームに入るなら、私が全力で守れるぞ」


「知っているでしょ。ワタシは協会だけじゃない。スキルを持たないすべての人間が嫌いだって。……話は終わりよおばさん。じゃあね」


 シグレが足早にその場から去っていく。

 と思いきや、時間を戻したように後ろ歩きで戻ってきた。


「まさかシズクが夜勤なのあんたのせい?」


「はて、なんのことやら」


「あんたなのね!! ふざけんじゃないわよ。だからズボラでだらしない子になっちゃったんでしょ!! 人間は朝起きて夜に寝るの!! そういうふうにできているの!!」


「勤務時間は本人の希望に沿っているだけだが」


「だいたい、なんで担当ドライバーがおっさんなのよ。同じ女性にしなさいよ。絶対車にカメラを仕込んでいるに決まっているわ!!」


 千歳がニヤリと笑みを浮かべた。

 相変わらずのシスコン。彼女の長所であり弱点。

 使える。突ける。


「部外者がずいぶん物申すじゃないか。ならば交渉といこう」


「は?」


「お前がシズクの勤務時間と担当ドライバーを変えたいのであれば、こちらの要求も飲んでもらう」


「軍門に下れっての?」


「いいや、そちらのリーダーと話をさせてほしい」


「なんで」


「戦争とはそういうものだ。まず互いの代表が話し合い、条約を定めようと模索する。無理ならば実力行使。だろう? 歴史は苦手だったか?」


「……地理は得意だったわよ」


「休日に偶然お前と出くわしたんだ。こちらは丸腰で一人。一方そっちは、リーダーとお前で最低でもふたり。私が戦闘タイプではないのは知っているな?」


「なにを企んでいるの。下手すりゃ死ぬってのに」


「死なないさ。私をこの世界の人間と同じにされては困る」


 シグレは大仰にため息をついた。

 かつて直属の上司だった女。すべてを支配できるわけではないし、しょせんは中間管理職でしかないが、自分から持ちかけた約束事は絶対に破らない性格なのは知っていた。


 協会との確執も大事だが、妹の生活リズムと身の安全のためにも、無下にするのは賢くない。


「まぁいいわ。最悪あんたを人質にできるし」


「無理だよ。私の契約者が黙っていない」


「はぁ?」


「私の魔法……スキルのひとつさ。私になにかあれば契約者はすぐに察し、居場所すら把握する。彼にかかればお前たちなど一日ともたん」


「そんなに強いの、そいつ」


 シグレの脳裏に林藤の顔が浮かぶ。

 自分の絶対拒絶を破った、唯一の男。


「あぁ強いぞ。この世で最も恐ろしい怪物を殺した男だからな」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

※ここから一人称です。


「今度は俺の話をさせてください、シュートさん」


 蕎麦湯を飲みながら、シュート・クリアクリーンJrとの会話を続ける。

 こいつは蛮勇だ。組織的に勇者協会を乗っ取るつもりでいる。

 ならば懐に入って情報を引き出すに限る。


「俺も協会には不信感を抱いているんですよ。詳しいことは話せないんですけど、自分、勇者協会の下請けの下請けみたいな立場で、何度か本部に入ったこともあるんです」


「ほう、協会の関係者だったんですね」


 ここでおっさんからのいらん知識を披露しよう。

 嘘というのは多少真実を混ぜたほうが話を作るのも信じ込ませるのも楽でいいぞ。


「単純に労働環境が終わっているというか、三六協定とかハラスメントだとか、そういうのガン無視で……まぁそれはいいんですけど、なにやら子供を悪いスキル持ちと戦わせようとしているらしくて、どうにも彼らが正義の味方とは思えないんです」


「…………」


 薄い反応。

 たぶん知っていたな。

 協会にスパイでもいるのだろうか。


 シュートのスマホが鳴る。


「もしもし……そうですか。いいですよ。いえ別に」


 手短に用を済ませると、


「林藤さん、場所を変えませんか。この私の仲間が合流するんで、もう少し詳しくお互いのこと語り合いましょう」


 仲間が来るのか。

 マズいな。敵が多いと最悪戦闘になりかねない。


「いえいえ、俺はもう帰ります。連絡先だけ交換ということで」


「いやいや、終わりませんよ。あなたなんでしょう? 昨晩ウチのメンバーと戦った送迎ドライバーというのは」


「なにを仰る」


「この私の観察力と洞察力をバカにしないでいただきたい。長時間座るのが習慣になっている人間の姿勢、そして芳香剤を購入したこと。なにより、子供も蛮勇の取り締まりに参加するという機密事項を知っていること。これだけ揃えば、考えなくてもわかります。あなたはドライバーで、何かしらの秘密を抱えている」


 みんなにもう一つ教えておこう。

 嘘が得意とイキっていると、案外簡単に看破されるので気をつけよう。


「いま、協会の幹部が我々と共にいます。もしここから逃げるなら、命の保証はしません」


 協会の幹部?

 どこのバカだよ、おめおめと敵組織に捕まったバカはよぉ。


 しょうがないから付き合ってやる。

 俺の体のマナはとっくに枯れているが、なんとかなるだろう。


 シュートと店を出る。

 タクシーを拾い、彼が運転手に目的地を伝える。


 やがて埠頭のボロい倉庫にたどり着き、中に入ると、


「うわっ」


 シズク姉と、千歳がいた。


「なんでお前が一緒なんだ、林藤」


「それはこっちのセリフだろ、ババア」


 シュートがメガネを拭きはじめた。


「こういうのを棚から牡丹餅というのですかね。変な真似はしないでくださいよ林藤さん、あなたの上司がどうなっても知りませんから」


「ちょ、ちょっと待って」


「非常に残念です。あなたとは良き友人になれたかもしれないのに」

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