第23話 運命の出会いを果たすおっさん、林藤
勇者協会と行政機関の間には軋轢があった。
市民の平和を守り暴力を取り締まる国家公務員たちと、不思議パワーで大暴れする大規模自警団。仲良くなれるはずもない。
なので基本的に協会の方針としては警察との接触は専門の部署に任せて、勇者たちはあまり関わるな、とされている。
とくに俺の場合は彼らと揉めるのはなんとしても避けたい。
一応違法移民者みたいなものだしな。戸籍も身分証も偽装だらけだ(普通車免許の学科試験は一応合格ラインを超えている)。
俺とシズクもその場から逃げて、車に戻った。
「おじさま、シズク、遅かったね〜」
「トイレが混んでいたんですよ、ルイナさん」
何事もなかったかのように車を発進させる。
女子寮前に到着して、少女たちを降ろす。
俺も本部の地下駐車場に戻ってきて、決まった場所に駐車。
エンジンを切って一息ついた。
「はぁ……。さて」
どう報告したものか。
業務上、送迎中の出来事がすべて細かく書くことになっている。
もちろん、これまで何度も嘘を重ねているが。
シズクとお姉さんのこと、千歳は気づいているのだろうか。
そもそも彼女の目的はなんだ?
物思いに更けていると、
コンコン。
運転席の窓ガラスがノックされた。
金髪ギャルのミワだった。
どうしてここにいる。彼女は確かに降りたはずだ。
女子寮からここまで走ってきたにしても、速すぎる。
ドアを開けて車から降りる。
「おっちゃん」
「どうしましたか?」
珍しく真剣な眼差しをしていた。
「ルイナから聞いてるから、おっちゃんのこと信頼してんだわ」
「え、はい」
聞いているってなにをだ。
前回の学校での任務のことか。
「だからさおっちゃん、シズクのこと裏切らないでね」
「…………」
「シズクとルイナを泣かせたら、蛮勇になってまっさきにおっちゃんのリトルボーイを切り落とすから」
裏切るもなにも、俺は協会の犬であって君らの友達でも仲間でもないのだが。
おそらくミワも知っているのだろうな、シズクと姉のこと。
事情を聞き出すか? やめておこう。本人が自分の意思で語ることだ。
「あなたの仰っていることはよくわかりませんが、ひとつ教えておいてあげます」
「ん?」
「疲れが取れない中年男性は、雇い主への忠誠より迷える子どもたちへの応援を優先しちゃうんですよ。自分のようになってほしくないから」
「んはははっ、違うでしょ、迷える可愛い女の子っしょ?」
「否定はしないでおきます」
「なるほどね〜。さすがおっちゃん。ごめんね、謝るよ。それにおっちゃんのリトルボーイはリトルじゃなかったしね」
「しね、じゃないんですよ。目撃した過去があるみたいに言わないでください」
「あれ? でもルイナのお腹のなかにおっちゃんの子供がいるって……」
「そんな事実はありませんから!!」
「実はアタシの中にもいるんだ。おっちゃんのフェロモン臭で妊娠しちゃった♡」
「そんなんで妊娠するなら日本は少子化にならないんですよ」
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※ここから三人称です。
深夜3時。
埠頭のとある倉庫にて。
「勇者の送迎ドライバー?」
メガネの男が眉をひそめる。
眼前に立つシズク姉は鬼も逃げ出すほどの不機嫌面で、コクリと頷いた。
「スキルのない送迎ドライバーのおっさんが、シグレの壁を破壊したというのですか?」
「だからそう言ってんでしょ。頭が良いなら一回で理解しなさいよアホメガネ」
理解できるはずがない。
シグレがスキルで生み出す絶対拒絶の壁が否定し、遠ざけられないものはない。
空気だろうが光だろうが核爆弾だろうが、シグレが認めないものは絶対に彼女の元まで届かないはずなのだ。
それを、スキルもない男が。
どうやって? 勇者協会の新しい武器なのか。
「しかもよりにもよって、あんなスケベそうなおっさんがシズクの担当だなんて……。普通若い女の子をサポートするのは同じ女性でしょ。これだから勇者協会は信用ならないのよ。ワタシらスキル持ちを人間として扱っていないんだわ」
「また、妹の勧誘に失敗したんですね」
「あんたには関係ないでしょ!! ったく、なんでシズクは……。はぁ、もういい帰る」
「ちょっ!! 待ちなさい、まだこちらの質問は終わっていません」
「はんっ、察して行動できないわけ? なにが【頂上頭脳】よ。マサチューセッツ大卒業だかなんだか知らないけどね、戦えない頭でっかちがリーダー面しないでほしいわね」
「くっ、高卒のくせに……」
「ハーバードとスタンフォードとケンブリッジと東大をすべて同時に首席合格してるわよ!! あと慶応!!」
彼女がパスポートすら所持していないことは、とっくに調査済みである。
メガネはため息をつくと、仲間の蛮勇たちにラインで情報共有をしておいた。
勇者協会を崩壊させ、自分たちがスキル持ちの頂点に立つ。
その野望までのロードマップは完璧に作りあげてあるというのに、ここに来てまさかのイレギュラー。
フード野郎とも、今日に限って連絡がつかなかった。
「頭が痛い」
翌日、午後1時。
メガネはあまり眠れず、気晴らしにドンキホーテへ訪れた。
彼はこういうゴチャゴチャした雑貨店は好きではなかった。しかし、だからこそ、チカチカした情報にまみれた慣れない空間だからこそ、脳に新しい刺激が与えられ、思考の回転が滑らかになるのだ。
意味もなくカーグッズコーナーをぶらぶらする。
メガネは車を持っていない。
すると、
「うーん」
なにやら芳香剤の棚で唸っているおっさんがいた。
入試の難問にぶち当たったような顔で、いくつもの匂いを嗅ぎ比べていた。
「わからん。俺にはさっぱりだ」
メガネは人の悩みを解決してやるのが好きだった。
脳のリフレッシュに繋がるから。
「どうかしましたか?」
「えっ、あぁ〜、実は……」
それが、メガネと林藤の出会いであった。




