第21話 トイレに行けなかったおっさん、林藤
※まえがき
途中まで三人称です。
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鬼刀切介は青ざめていた。
勇者専用のリラクゼーションフロアのソファで、開けていない缶コーヒーを片手に物思いに更けていた。
あれはなんだったのだろう。
あのドライバー、いや車の方か? 強固なモンスターに突進して貫いてしまうなんて。
長年磨き上げてきた剣技ですら、あそこまでの攻撃力は出せない。
本来ならただの日本車など、ぺしゃんこになって然るべきなのに。
「ん?」
同じチームのロンギヌス槍太と雷ゼウスがやってきた。
ふたりも報告書を提出し終えたらしい。
「おう、上の反応はどうだった?」
「一応確認するってさ」
「やっぱりか」
あのドライバー、林藤は「たまたま弱点を突けただけ。危険な目に遭わせて申し訳ない」と頭を下げていた。
とても信じられない。しかし他に考えられない。
チーム切介は他人の失敗に寛容ではあるが、モンスターに突っ込むなんて暴挙は、いくらなんでも報告せざるを得ない。
「はぁ、詳しいことは上に調査させよう。せっかく明日は休みなんだ。どっかで飲もうぜ」
本部を出て駅へと向かう。
それから電車に乗って、港区方面へ。
実は三人とも港区にある実家で暮らしている小金持ちであった。
翌日が休みなら地元の駅で朝まで飲むのが彼らの習慣。
電車を降りて、駅を出る。
やや人気の無い路地に入った瞬間、
「予測通り来たわね」
茶色いツインテールの少女『九海』が、電信柱の陰から現れた。
さらに彼らの背後から、五名ほどの男たち。
「ひーふーみー。……ねぇ、もう一人仲間がいるんじゃないの?」
「な、何者だお前たちは!!」
「まぁいいわ。連行して聞き出せばいいだけだし。それに……どうせ全員ぶっ壊すつもりだしね!! クヒヒ!!」
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※ここから一人称です。
「おじさま〜、おっつー」
「おじさまと呼ばないでくださいルイナさん」
深夜1時15分、港区にダンジョンが発生した。
規模は小さいがランクはS。いつものギャルトリオが処理に出向き、さっさと終わらせてくれた。
ルイナが助手席に座る。ニヤニヤしながら俺を見つめている。
まるで『昨晩は最高だったね』みたいな顔で。もちろん彼女との間にそんな事実は存在しないが。
二列目のシートに金髪のミワが座る。そしてーーあれ?
「シズクさん、どうしました?」
紫髪のシズクが車に乗らない。
「林藤ちゃんごめん。コンビニ行こう」
「はい?」
「トイレ。あとヨーグルト飲みたい。お財布忘れたー」
「奢ってほしいわけですか。最近じゃあスマホで決算できるはずですけど」
「ふふっ、クレカ止まってんの〜。使いすぎて」
いくら勇者は儲かるからって、散財でもしているのか。
ミワがアクビをかます。
「シズクはいつも金欠だかんなー」
「林藤ちゃ〜ん、おねがい」
と、気持ちのこもっていないダウナーな口調で懇願してきた。
まったく、しょうがないな。
俺もトイレ行きたかったし。ついでにコーヒーを買おう、キンキンに冷えたブラックコーヒーを。
ルイナとミワを車に残し、シズクとふたりでコンビニを目指す。
スマホで確認する限り、微妙に遠いな。
とはいえ時間に追われているわけでもないし、構いやしないか。
「あれ、そもそもトイレなんて貸してくれるんでしょうか。深夜ですし」
「トイレは嘘。林藤ちゃんとふたりっきりになりたかった」
「は?」
シズクが眠たげに微笑む。
この子は喋り方も表情も緩いから、こっちまで眠くなってくる。
「ルイナとイチャイチャしたんだってね」
「イチャイチャってほどでは」
「わたしも林藤ちゃんとイチャイチャした〜い」
腕に抱きついてきそうだったのでひらりと回避する。
「む〜」
「中年男性をからかうと後が怖いですよ」
「ふふっ、なにそれ」
まさかシズクめ、金目当てで他のおっさんと関係を持っていたりするのだろうか。
彼女がどこで誰と会っていようが構いやしないが、どうか寂しいおっさんたちを勘違いさせないでほしい。
ニュース記事に名前が載るような真似だけはご勘弁願いたい。
そんなこんなでコンビニに到着。
案の定トイレの貸出はされていなかったので(さすが都会)、俺はコーヒーと飲むヨーグルトを手に取った。
レジで精算して、店を出る。それと同時、
「ん?」
空から男が落ちてきた。
「う、うぐぅ……」
見覚えるのある男だった。
たぶん勇者。落ちてきてモロに頭を打っているのに出血していないし、十中八九勇者だろう。スキル持ちは常人より少し丈夫になるから。
確かこいつ……あっ、今日から担当になった鬼刀切介だ。
「だ、大丈夫ですか?」
なにがあったのだろう。視線を上げるが、誰もいない。
「ば……ばんゆうだ……」
「蛮勇?」
「って、あんた、ドライバーさん。き、気をつけろ、たぶんやつらは、あなたのことも狙う」
「意図して勇者協会の人間を攻撃しているということですか? 他の人たちは?」
「ロンギヌス槍太と、雷ゼウスは、俺がなんとか逃がした。しかし……くっ……」
この人たちの労働時間はとっくに終了している。
つまり、帰宅中に襲われたということ。
明確な敵意。これまで水面下で静かに燃えていた戦争を熱くするつもりなのか。
「バカねあんた、ワタシから逃げられるわけないでしょ」
上空から四つの人影が降りてくる。
男が三人、茶色いツインテールの少女が一人。
こいつらか、千歳のいう悪のスキル持ち、蛮勇。
「一般人はさっさと散りなさい。でないと……」
生意気そうな少女が、俺たちを見やって目を丸くした。
わなわなと明らかに動揺している。
「シ、シズク……」
「お姉ちゃん」
シズクのお姉さん?
蛮勇の女が? 確かに顔つきは似ているが。
「そこのおっさん、まさかシズクとパパ活しているんじゃないでしょうね!!」
「え」
「ふざけんじゃないわよ。ワタシはね、勇者よりもあんたみたいな男が大嫌いなのよ。よくもシズクを騙して……ぶっ壊す!!」




