第18話 別れの気配を醸し出すおっさん、林藤
「ツキホ……さん」
「林藤さん!!」
スーパーにて遭遇したツキホの表情が、喜びに満ちていく。
運命を感じちゃっているのかもしれない。
ていうか何故ここに? 左手には買い物カゴ。ということは当然買い物。
けれど今日は平日だぞ? 学校はどうした?
「昨日の一件があって今日は休校になったんです」
「思考を読まれた!?」
「家族なので!!」
「違います。まったくの赤の他人です」
いっそのことDNA検査でもしてやろうか。
したところで信じなさそう。
「昨日はどうもありがとうございました」
「いえいえ、怪我の具合は?」
「すっかり元気です。でも協会の方から連絡があって、私とアキラは今日はお休みなってしまいました」
「そうですか」
「あっ!! ちょっと待っててください!! ここで!!」
ツキホが走ってどこかへ消えていった。
おいおい、スーパーの中で走るなよ危ないな。
だいたい待ってろって、何を待つというのだ。
何かを取りに行った? 用事を思い出した? それとも誰かを連れてくる?
誰かって……まさか……。
ツキホが戻ってきた。
「林藤さ〜ん」
隣には、彼女によく似た成人女性。
お姉さん? いや、違う、おそらくたぶん違う。
ならば、ならば、あの女性は……。
「お母さん、この人が前に話した林藤さん」
ツキホママと視線を重ねる。
明るくハツラツそうな雰囲気の女性。俺より年上、なのか?
にしてはかなり若く見えるが。
「あ〜、えっと」
ツキホの話によれば、俺は彼女をデスワームから守ったことがあるらしい。
まったく覚えていないが。最初の厄災のときは俺もこの世界に迷い込んだばかりでテンパっていたし、正直記憶がおぼろげだ。
「うふふっ、娘がいつもお世話になっております。ツキホの母でございます」
「ど、どうも。担当ドライバーの林藤です」
「大変でしょう。ツキホは思い込みが激しいし、アキラくんはメンタル弱いし、加藤くん? は騒がしいみたいだし」
「いえいえ」
実の娘に対して思い込みが激しい、か。
母親の方はマトモらしい。そりゃあそうだ。自分が生涯愛した男性と、どこの馬の骨ともわからぬおっさんを同一人物だと言われたら、不愉快極まりないだろう。
「お母さん、でもお父さんの写真とそっくりでしょ?」
「もう、なに言ってるのツキホったら。うふふ」
「え〜、でも。あっ、着信」
ツキホが電話にでる。
会話の内容からするに、友達からのようだ。
とにかく、母親がマトモで助かった。
直接会った母が否定しているんだ。きっとツキホもわかってくれるだろう。
ツキホママがニコニコと俺を見つめる。
可愛らしい人……ではあるけど、なんだろう。圧が強い。
「うふふ」
「?」
ズイっと顔を寄せてくる。
手招きまでして、耳を貸して欲しいようだ。
なんだろうか。指示されるままに少ししゃがみ、耳を貸す。
ツキホママが耳元で囁いた。
「娘にはナイショ、だものね」
「なにが!?」
「驚いちゃった。もう会えないと思ったから。少し太った?」
なんでそんなに馴れ馴れしいのだろう。
面識があるのは事実だが、10年前にほんの数秒程度だろう。
確かにあの頃より太ったが。腹が出てきたが。当時のジーンズが履けなくなっているいるが。
ツキホが電話を切る。
「お母さん、メグミが来れなくなったわ。って、なんだか近くない?」
「うふふ」
「あそっか。夫婦だものね!!」
「そうだわツキホ。メグミちゃんが来れなくなったなら、林藤さんに泊まりに来てもらいましょう」
「いいの!?」
よくないだろ。
勝手に決めるな。
俺はこのあと頑張った自分へのご褒美に一人鍋をするつもりなのに。
「来てくださいますよね? 林藤さん」
「いやいやいやいや、ダメでしょうどう考えても。こっちにも予定がありますし」
前言撤回、この人もアレだ。
アッチ側だ。この子にしてこの親あり。
「確かに、急なお泊りは迷惑よねぇ。うーん。ならせめて晩ごはんくらいご馳走させてくださいな」
娘とふたりで暮らしている未亡人の家になんぞ上がれるか。
行かない。絶対にご馳走にはならない。
と確固たる信念を打ち立てたのはいいが……。
ツキホが目を輝かせている。
はぁ、しょうがない。せっかくなら一度、ゆっくり説き伏せてやろう。
俺に幻想を抱くべきではないと。もうじき、一緒に仕事しなくなるしな。
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ご馳走させてくださいな、ということだったので期待してみたら、マックでした。
ですよね~。この親子が住んでいるのはおそらく勇者協会の女子寮。業者でもない限り男が入ることは絶対に許されないのだ。
例え父親であっても……。父親ではないが。
ちなみに彼女たちの言っていた「お泊り」とは、別荘に、ということだったらしい。
なんでも、ツキホが数日の休みを貰ったので、海辺の別荘に友達などを呼んでリフレッシュする予定だったらしい。
まぁいいか。マックなんて久しぶりだし。冷食は買ってないから多少帰りが遅れても問題ないし。
「美味しいですね、林藤さん」
「そうですねー」
テーブルに娘っ子一人に中年の男女が二人。
他所様からしたら家族に見えるだろうな。
ムズがゆい。
「あらあら、ごめんなさい。ちょっと電話が……」
ツキホママが席を立つ。
タイミングなら今だな。
「ツキホさん」
「はい?」
「もうじきあなたの担当から外れます」




