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現代勇者協会の送迎係のおっさんは異世界帰りで元最強剣士 ーー知らない世界で病んじゃったので慎ましく生きる……予定でしたーー  作者: いくかいおう


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第17話 新たなはじまりを感じるおっさん、林藤

 忘れていましたが、今日は休日出勤でした。

 夜の21時に帰宅して、シャワーを浴びました。

 コンビニ弁当をビールで流し込み、スナック菓子なんて食べちゃいました。

 医者から注意されていたのに。


 何故かって?

 振替休日が得られなかったからです。

 明日からまた仕事です。休日は一日だけなのかって? そうだよ。


「つかれたー」


 背中が痛い。腰も痛い。手首も痛い。

 なにより心が痛い。

 肉体にあるすべてが抜き取られたかのような虚脱感。


 インターホンが鳴った。

 どこの誰だよ、目も当てられないほど変わり果てた俺の休日をさらに短くしやがるサイコパスはよ。


 と文句を垂れつつ玄関扉を開ける。


「やぁ坊や」


「千歳……」


「あがらせてもらうよ。この侘しい部屋に」


「こいつ……」


 千歳が俺の家(1K)に不法侵入してくる。

 一応、靴を脱いで。

 キョロキョロと見渡して椅子がないことを確認すると、壁に寄りかかった。


「ご苦労だった。やはり私の見立てどおり、魔王の遺体が絡んできたな」


「フード野郎の正体はわかったのか?」


「いいや、まったく」


「なんで学校に俺を派遣した。あいつが来ることまで予見……お前、聖女だったな」


「ふふっ、占いは苦手だから、漠然とした光景しか見えなかったがね」


 こいつは様々な魔法を扱う。

 未来視もその一つだ。

 力の区分的にはスキルに分類されるので、本人が失神でもしていない限り無限に発動することができる。 

 俺みたいな外部からのエネルギー源が必要な凡人とは大違いだ。



 他にも瞬間移動やら五大属性の操作、召喚獣の召喚、読心術等々、概念的には人間より神に近い。

 生き物として各が違うのだ。

 一般人<俺<<<<普通のスキル持ち<<<<<<<<聖女千歳。

 みたいにね。


「なあ、休日労働手当プラス振替休日をくれないか」


「金はだす。休みは直属の上司に相談するんだな」


 あらかじめ口添えをしておいてくれって話だっつーの。

 千歳がベランダへ出ていく。追って俺もベランダへ。

 あっ、先にサンダルを使われた……。くそっ。


 仕方なく靴下のままベランダへ降りる。


「業務が増えるかもしれん」


「はい?」


 千歳が懐からタバコを取り出した。

 俺に構わず火をつけて、ニコチンを接種する。


「例のフード野郎、私と協会本部の見解では……蛮勇の一人だと見ている」


「なんでそいつらが魔王の遺体を?」


「それはわからん」


 蛮勇とは、スキルを悪事に使う連中のことだ。

 勇者協会から追放された者だけでなく、登録されていない者も大勢いるので、取り締まりは困難を極めていた。


「本部は本腰を上げて蛮勇狩りを行うつもりだ。人員を増やすのさ。これまでは25歳以上のSランク勇者だけに討伐を依頼していたが、年齢条件を下げるらしい」


 蛮勇との戦闘は、相手の強さに関わらずSランク勇者に任せられる。

 相手はモンスターではなく人。その凶暴さ、狡猾さ、非情さによる危険度は、Sランクモンスター以上だと判断されるからだ。

 そして人と戦うならば、下手をすれば殺人を執行せざるを得ない場合がある。

 故に子供には任せられず、25歳異常に限定しているのだ。


「いずれルイナのチームも蛮勇狩りに参加することになるだろう」


「未成年だろ」


「本人たちは了承している」


「あっそう」


「君も仕事が増えるだろう。Sランクチームを三つ担当してもらう。休憩時間が減るかもしれないが、そのぶん手当ははずむ。もちろん、蛮勇狩りの送迎だけでなく、本来の業務の送迎もやってもらうことになる」


「えっ……」


 Sランクチームが三つ。

 一つはギャルトリオ。じゃあ残りの二つは?

 少なくとも、ツキホたちじゃない。

 あの子たちのチームランクは、Bだ。


 そうか。そうかそうか。

 担当替えか。あの子たちともお別れか。

 寂しくはないさ、別れは慣れている。


 なんせ故郷や家族、仲間ともお別れしているからな、強制的に。


「ただ私としてはーー」


 千歳が悪魔のような笑みを浮かべた。


「お前が正式に勇者になって私とチームを組めば、二日で蛮勇を全滅できるだろうが」


「この世界の連中は脆すぎる。絶対うっかり殺しちゃうからやだ」


「ふふっ、そうかい」


 千歳が咥えていたタバコを俺に差し出してきた。

 吸うわけ無いだろ。お前のツバがついたタバコなんぞ。

 だいたい、俺は禁煙中だ。


「少量だが、私のマナを吹き込んでおいた。補充しろ」


「…………」


「これは命令だ。上司として、聖女としてのな。魔王の遺体が絡んでいるなら、お前も無視できないだろう。戦える力は蓄えておけ。それとも、口から直接流し込んでほしいか?」


「……はいよ」


 葉っぱを白い紙で包んだ嗜好品を受け取る。

 口に咥えて、一服。

 全身に力が満ちる。ニコチンのおかげじゃない、異世界特有のエネルギー、マナだ。

 とはいえ、決して充分じゃない。空腹状態の体にお椀一杯分の豚汁を流し込んだようなものだ。


「詳細はメールで送るよ。じゃあな坊や」


「ん」


「ドライだな、久しぶりに私の胸に甘えなくていいのか? それっぽっちじゃ足らんだろうし」


「キモい、帰れ」


 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 翌朝。

 俺は少し上機嫌だった。

 休みを貰えたからだ。


 えーっと、とりあえず午前中は家でゴロゴロして、午後も家でゴロゴロして……。

 なんて時間を無駄にしている場合じゃない。スーパーで食料を買わないと。

 家を出て、自転車に乗る。


 ペダルを漕ぎながら、ボーっと考える。

 ツキホたちはこの先、うまくやっていけるのだろうか。

 アキラはまたメンタルが壊れかけたりしないだろうか。

 リュウセイは知らん。


 ツキホは……。

 あの子ならきっと大丈夫だ。

 大丈夫だろう。大丈夫だと思いたい。

 ていうか気にしすぎると、過干渉になりそうで怖い。


 スーパーに立ち寄る。

 冷食コーナーを物色する。

 安い冷凍シュウマイを手にとってカゴに入れると、


「林藤さん」


 後ろから、ツキホに声をかけられた。

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