第16話 学校占拠⑥ へとへとなので介護してもらうおっさん、林藤
「コンドコソ……クウ……オマエ」
「っ!?」
気付いたときにはコンバに殴られていた。
後方に吹っ飛び、花壇を突っ切って校舎に激突する。
見えなかった。魔王の一部を取り込んで俺より強くなった? というか、俺が衰えているせいもある。
異世界にいた頃より、遥かに。そして、五分前よりも。
「クッソ」
あ〜、力が湧かない。
背中が痛い。ていうか謎の吐き気が込み上げてきた。
「タイシタコトナイナ、オマエ」
「いいよなお前は、餌貰って元気いっぱいで」
「エサ? フザケルナ、マオウサマノウデ、エサジャナイ」
尊敬している割には躊躇わず食うんだな。
「ちなみに、どうして魔王の腕が切り離されているのか教えてやろうか」
「?」
「俺がバラバラにしたんだよ。お前の大好きな魔王様をな」
「!!」
「とっくにぶっ殺した。この俺が」
コンバが俺の腹を殴る。
続けて、肩に噛みついてきた。
「コロス!!」
「ッ……」
ダメだこりゃ。
俺の体内に蓄えたマナも、あと大技一つ出すのが限界。
しかも相手は素早い。当てられるかも怪しい。
惨めなものだ。
他所の世界に迷い込んで、複雑な社会に病んだ末にモンスターに食われて死ぬなんて。
せめて、せめてルイナを本部まで救急搬送してやりたかったが。
と諦めかけた瞬間、
「「「ガギャアアアア!!」」」
校舎から、生き残っていたゴブリンたちが飛び出してきた。
各々殺気立って、棍棒片手にコンバへ突っ込んでいく。
よくわからないが、いまのうちにコンバから距離を取る。
なんだ? こいつら。挑みかかるのはいいが、どんどんコンバに殺されていっている。
なにをそこまで怒っているのだろうか。
そうか、そうだった。こいつらのボスはコンバに殺されているんだ。
なるほど、意外にも義理堅い、仲間思いな連中だ。
さて、今のうちに策を練らないと。
あいつの動きを封じ、確実な一撃で完全消滅させる。
どうする。どうすればいい。
コンバがあっという間にゴブリンたちを全滅させた。
改めて俺を睨む。
「クウ」
「食ってもおいしくないぞ。喫煙経験もあるしな」
腹を括るか。
そう覚悟した瞬間、
「オッ!?」
コンバが宙に浮いた。
自由に身動きが取れず、ジタバタと暴れまわっている。
これは、まさか……。
「おっさん、おっつー」
「ルイナさん……」
顔面蒼白で、腹を擦りながら、よたよたとこちらへ近づいてくる。
やはりルイナだった。ルイナのスキルで浮かせたのか。
「大丈夫なんですか?」
「んー? 持続して浮かせるのはちょっとしんどいかなー。でもおっさんのためにウチ、死物狂いで頑張るよ。これしか取り得ないし」
「ありがとう。もう少しの辛抱です」
もっと良い武器がほしいな。
リュウセイのやつも連行してくればよかった。
「林藤さーん!!」
声がする。上からだ。
廊下からツキホが心配そうに身を乗り出して、俺を呼んでいた。
「私、私にできることはありますか!!」
「おぉ〜、ちょういいところに。ツキホさん、その〜、俺に命を預けるって、できますか?」
ツキホは首をかしげると、ムギュッと顔をしかめて窓から身を投げた。
おいおい、勇者だから多少は丈夫とはいえ、危ないだろうに。
なんとかツキホをキャッチする。意図せず、お姫様抱っこの体勢になってしまった。
「なんと無茶な」
「私、林藤さんに命を預けられます。さっき確信しました、林藤さんは英雄さんで、私のお父さんだってことを」
「えっと、申し訳ないですけど違います。ですが、お気持ちは嬉しいです」
ツキホを降ろす。
「それで、一体なにをすれば?」
「俺の介護です」
「介護?」
思うように体が動かない情けないおっさんをサポートしてくれってことさ。
若い女の子ふたりに介護されないと、もはやモンスターすら倒せないのだ。
三五歳でこれなら、六〇になったらどうなっているのやら。
「あれを射抜いてください」
「え、でも私、あのボスゴブリンですら貫けなくて……」
「大丈夫、大丈夫です。俺がついてますから」
ツキホが息を飲む。
覚悟を決めて、頷いてくれる。
「おっさ〜ん、ウチも辛いんだからはよ〜」
「あ、はい。ではツキホさん、頼みます」
ツキホが光の弓矢を手に握った。
鋭い目つきで宙に浮かんだコンバを睨み、矢を構える。
「少し、失礼します」
ツキホの両肩にそっと手を添える。
彼女にバレないように、俺に残った最後のマナを流し込む。
恒星のように眩い弓矢が、さらに強い光を放ち二倍にも三倍にも大きくなる。
「眩しい!! こ、これはいったい……」
「大丈夫です、落ち着いて。あなたには素晴らしい才能があったということです」
「でも今まで、こんなの……。あぁそうか、そうですよね、お父さんが側にいてくれるからですよね!!」
「違います」
まぁ、近からず遠からずなんだけど。
ツキホが深呼吸をする。キリッと、再度狙いを定める。
眩しかろうが関係ない、本能で当てられるはずだ。
そしてーー。
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数時間後。
「お疲れさまでした、ルイナさん」
「おつおつおっつー。いてて」
助手席にルイナが座る。
俺は車のエンジンをかけて、出発した。
戦いは終わった。コンバは魔王の遺体ごと完全消滅した。
例のフード野郎の行方はわからない、いつの間にか消えていた。追加の調査は千歳に任せる。
おそらく魔王の腕が消えたからだろう。開きっぱなしだったゲートも閉じて、各地でのモンスターやダンジョンの処理も無事に終わった。
やがて学校にも協会の救護班が到着した。
ゴブリンに乱暴された生徒やツキホにアキラ、そして重症のルイナ。
みんな手当を受けて、解放されるころにはとっくに日が暮れて、夜になっていた。
ツキホとアキラも本部にて報告書を提出することになったが、俺の車には乗せなかった。
正直、いまはツキホの相手をしている余裕がない。またアキラのためのメンタルクリニックを開業してやる余裕も。
だからふたりには、救護班の車に乗ってもらった。
そうして現在に至る。
「あの子さー、夕勤の子でしょー? 親子なの?」
「違います。向こうの思い込みです」
「ウチもおっさんのこと、パパって呼ぼっかな〜」
「やめてください」
「じゃあ、おじさま?」
「本当にやめてください」
「んへへ」
「お腹の傷はどうですか? 完治したわけではないでしょう?」
「うん、治療用ジェルで塞いでるだけ。帰ったら手術〜」
にしては軽いなぁ、本当に。
彼女も救護班の車で帰ればよかったのに、無理やり俺と一緒に本部へ戻ることにしたのだ。
それを許してしまえるほど高性能のジェルにも驚きだけど。千歳が開発に噛んでいるらしいが、向こうの技術を流用したのだろう。
「ねぇおっさん。頑張ったご褒美とかないの〜?」
「なにが欲しいんですか?」
「おっさんのはじめて」
「どうして経験無しだって前提なんですか。却下です」
「え〜? じゃあなんだろうなー。焼き肉食べれるお腹じゃないしなー」
今回、ルイナはよく頑張ってくれた。
彼女がMVPだし、俺一人ではおそらくコンバを倒しきれなかったかもしれない。
故に、ご褒美を上げたいという気持ちは、俺にもある。
「では、俺の秘密を教えてあげます」
「ん?」
「俺もあなたと同じで、戦いのために他の人生を切り捨ててきました。いまは第一線から退いて、自己肯定感の低い病んでるおっさんに成り下がりましたけど」
「んへへ、それが秘密?」
「……俺は三五歳ですけど、この地球の住人としては、あなたの方が先輩です」
「おっさんは宇宙人なの?」
「そこから先は教えません」
「んへへ、変なの。やっぱおじさまって呼んじゃお〜」
「勘弁してください」
「な〜んか、今日おじさまと一緒にいすぎてムラムラしてきた。進路変えてウチの家へゴー!!」
「ゴーしません!!」




