第13話 学校占拠③ 捨てることにしたギャル、ルイナ
偶然空いていた一階廊下の窓から校舎に侵入。
さっそくゴブリンを一匹発見した。体格の良い男性教師を棍棒で殴っていた。
体は小さくてもパワーがあるからな。並の人間じゃあ太刀打ちできない。
チンパンジーみたいなものだ。
「見ててね、おっさん」
ルイナが胸の谷間から大きめの針を取り出した。
指を鳴らし、針を浮かせると、
「それ」
ヒョイッと飛ばしてゴブリンの頭部を貫いた。
こりゃ凄い。操れる物に制限はあるのだろうか。
なんて、悠長に感動している場合じゃないな。
急いで駆け寄り、まず垂れた血を吹く。事前に準備しておいた消臭スプレーで臭いまで消す。
ここは……職員室前か。助けた教員のジャケットでゴブリンを包み、職員室内にあったポリバケツに突っ込んで蓋をした。
ひとまず、臭いで異変に気づかれる可能性は減ったな。
倒されたモンスターは黒い塵となって消滅する。
だが、完全消滅するまでの僅かな間に血の匂いや仲間の死の気配に、他の個体が気づいてしまう場合があるのだ。
ゴブリンは危険に敏感で鼻もいい。警戒しすぎているということは、ないだろう。
「みなさん、勇者協会のものです。ゴブリンが全滅するまで決してここを動かないでください。下手に逃げたり生徒を助けようとすると、逆に危険ですから」
先生たちが黙って頷く。
そのうちの何人かは、俺の隣りにいたルイナに視線をやっていた。
確か彼女は元生徒だったな。
それがほぼ意味のないくらい短いミニスカを履いて助けに来たんだ。ガン見もするだろう。
「せんせーたち久しぶり〜。ウチとおっさんが助けてあげっから、待っててちょー」
ゆるいな〜、こんな状況でも。
職員室を出て、警戒気味に一階の廊下を進む。
端末によるスキャンによると、この階にはもう一匹いるはずなのだ。
「ここが母校ということは、麻布育ちなんですね」
「んへへ〜。そうだよー。セーラームーンの舞台なんだってね」
へー。それは知らなかった。
この子がこんなに緩いのは、恵まれた環境でのんびり過ごしていたからなのか。
「おっさんは地元どこ〜?」
「秘密です」
「んへへ、なにそれウケる」
「どうでしたか1年ぶりの母校は」
「3年ぶりだよ」
「ん? 現在19歳では?」
「ウチさー」
と喋っている間に見つけた。一階にいる最後の一匹。
ルイナが先ほどと同じようにサクッと殺す。そして俺がサクッと死体を隠す。
「ウチさー、もともとめっちゃ真面目な女の子だったんだよ。髪も黒くてスカートも膝下だったし。てか親が厳しくて化粧すら禁止されてた」
「では彼氏の影響?」
「んなわけないじゃ〜ん。ウチさ、真面目過ぎちゃったんだ」
ルイナの瞳が細くなる。
過去の自分を憐れむように、記憶のアルバムに浸るように。
「勇者とか勉強とか家族のこととか将来のこととか、真面目に考えて、真面目に生きすぎてた。ほいで、あるとき任務で腹を貫かれてさ、マジで死ぬかと思ってさー。でもそんとき感動したんだよね。血も内蔵も失って、体が軽くなった気がしたの。あ、もう完治しているしお腹の中も完全復活しているから気にしないでね。んでー」
二階へ上がる。
また見つけた。ルイナが殺す。
なんだよ、彼女一人で充分だったんじゃなかろうか。
死体の処理しかしていないぞ、俺。
だからか、そのための俺なのか。
汚れ仕事はおっさんの役目だからな。若い女の子は手を汚す必要はないのだ。
「んでね、ウチってばなんか目が覚めちゃって、心も軽くしようと思って、真面目な『学生』でいるのやめちゃった。自由になることにしたの。髪染めて、スカートも短くして、そしたらすぐに叱られて、自主退学。親からも勘当。でもね、気分がよかったよ。おっさんがジロジロお尻見ているの、かわいいし」
見てないが。
正確には見ているが、それはあくまでつい視線がいってしまっただけで、故意で見ているわけじゃない。
「そうですか」
「え〜、ドライじゃん。心の中でバカにしてんでしょ」
「してませんよ。むしろ立派だと思います。その年でそんな決断ができることが」
「せんせーたちからは苦しみから逃げているって言われたけどね」
「病気などで収入が減り、ローンの支払いが困難なら家を売る、車を売る、かけている保険の支払額を下げてもらう。そいうのは逃げているとは言わないでしょう。臨機応変に取捨選択しているだけですから」
「なにその例え。ウケる」
「おっさんですから。それに……」
「?」
「勇者でいることは捨てなかったじゃないですか」
普通ならまず真っ先に戦いから逃げるだろう。
危険なことは他人に任せて、自分の人生の快楽だけを優先するだろう。
なのにしなかった。自分の将来より、他人の命を守り続けることにした。
結果、勇者として大活躍して人々を救っているんだ。
立派じゃないか。
「周りは不良になったと思うでしょうが、ルイナさんの根っこの部分は変わっていませんよ。責任感と優しさに溢れた、素敵な女性です」
「……んへへ。ありがと」
照れくさそうにルイナが笑った。
ちょっとクサイセリフで褒めすぎたか。気持ち悪がらないでほしい。
「おっさんさー、お尻触る?」
「触りません。まさか、いろんな人に触らせているんじゃないでしょうね? さすがの俺も注意せざるを得ませんよ、もっと体は大事にーー」
「してないよ」
「…………」
「触りたがる男はたくさんいるけど、触ってほしい男は、おっさんだけだよー。んへへ」
そうやってすぐ俺を弄ぶ。
まったくこの子は。
「俺みたいなおっさんにーー」
廊下を歩きながら、そう俺が言葉を発した瞬間、
「っ!?」
窓ガラスが割れ、人型の何かが飛び出してきた。
速い。反応できない。というか遅れた。ルイナとの会話に気を取られてしまった。
そいつは拳を握るとルイナの腹を殴り、そのまま貫いた。




