第12話 学校占拠② 任務を開始するおっさん、林藤
モンスターの性質は、この世界に実在する熊や獅子と基本的には変わらない。
こっちが怪物を恐れるように、モンスターも人間を恐れるのだ。
人を餌だと認識しない限り、積極的に狩りにはこない。無論、絶対ではないが。
知能もタカが知れているので、家でも車でも、密室に籠もってじっとしていれば、危害を加えられることはあまりない。
だが、それは彼らが見知らぬ土地に落とされて『不安』になっている場合に限る。
モンスターを率いる指導者、ボスがいれば、彼らは活動的になる。行動力が増す。凶暴性が顕著になる。
迷子の子供が親と再会して元気いっぱいになるようなものだ。
モンスターにとってのボスというのは、基本的には魔王を指す。
最初の厄災にてモンスターが大暴れしたのは、まだ俺がこの世界に逃げてきた魔王を殺していなかったから。
「つまりぃ、今回は不運にも異世界からボス個体も含めた大量のゴブリンが来ちゃったわけなんだよねー。だから群れが形成されちゃって、調子乗ってるわけ」
助手席のルイナが飴を舐めながら俺に説明してくれる。
大方予想はつくことなので説明不要だが、お互いの認識をすり合わせる必要があるので口出ししない。
「群れになって、みんなで開放的な建物である学校に突入!! んへへ、小物だよね〜。ちなみにウチはミワやシズクがいなくてもガンガン攻めるよ、おっさん」
俺の左腕をぎゅっと抱いたまま、ぎゅむっ、ぎゅむっと胸を押し当てる。
頼むからもっと緊張感を持ってくれないだろうか。
「千歳さんから何か聞いていますか?」
「何かって〜?」
「俺の……秘密とか」
「んー? ひみつ〜? 実は奥さんがいるとか? 隠し子?」
「どっちもいませんよ。俺は永遠の独り身です」
「え〜!! まさか女性経験なし〜!?」
「それ、セクハラですよ」
「いいじゃん、ウチみたいなエロいギャルにセクハラされるの、おっさん好きでしょ?」
好きになったら男として、大人として終わりだよ。
俺にだって35年の間に培ったプライドくらいはあるんだ。
「話がそれてます」
「んへへ、おっさんさー、女社会で賢く生きる方法って知ってる?」
「は?」
「知らぬ存ぜぬだけど川の流れには順応して従う」
「なるほど」
「てか、もともとおっさんは只者じゃないって見抜けてたし」
「というのは?」
「そんくらいの目がなきゃ、女でSランク勇者にはなれないよ」
妙に説得力があるから恐ろしい。
ならばおそらく、ミワやシズクも察しているんだろう。
さすが千歳の息が掛かった娘たち。あいつに似ている。
都立高校の校門前に車を停める。
見張りはいない。しょせんはゴブリンか。
ルイナは小型の端末を取り出すと、校舎へ向けた。
本来はダンジョンで使う機械だが、近くにいるモンスターの数を検知することもできた。
「15匹。意外と少ないねー」
「あの規模の校舎に15匹。そう聞くと大したことはないですが、人質は何倍もいます。決して油断しないように」
「ほいさ!!」
一応裏口から敷地内に侵入する。
やはりどこにも見張りや警備のゴブリンはいないな。
ただほとんどの生徒が校舎に閉じ込められている当たり、中ではゴブリンどもがところどころに配置されているのだろう。
「あっ、そいえば言い忘れてたね、ウチのスキル」
「そうですね」
「ウチのスキルは……」
ルイナが指を鳴らす。
たまたま近くに転がっていたサッカーボールが浮かんだ。
「サイコキネシス」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
※ここから三人称です
都立新岩高校。
現在この校舎は、ゴブリンたちによって占拠されていた。
各階の廊下や教室にはゴブリンたちがいて、逃げ出す人間がいないか見張っていた。
彼らは学校内にいる生徒たちを奴隷と食料として扱うつもりでいた。
そしてボスであるキングゴブリンは2年生のとある教室内で、ギャオギャオと部下のゴブリンに命令を下していた。
もちろん、なにを言っているのかは誰にもわからない。
生徒たちや教師は変に刺激しないよう、教室の後ろに固まっていた。じっとゴブリンを睨む者、泣き続ける者、蹲る者。
奇跡的にもそのなかに、勇者が混じっていた。
塚田ツキホと今井アキラ。
彼らは反撃の機会が来るのを虎視眈々と狙っているが、いまだそのチャンスは訪れない。
同時刻、学校の上空に魔法陣が出現。
闇のように真っ黒な人型のモンスターが、屋上に飛来する。
「……クカカカッ」
この人型モンスターは後に、勇者協会にてSSランクに位置づけられた。




