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プロメテウスの火  作者: Marry
第二章 プロメテウス編

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第20話 エルピス(希望)

 10、9、8、7、6……

 

 その場の全員が、数秒後に起こるであろう惨劇に耐えきれず、モニターから目を逸した。


 いや、機器の前に座るオペレーターだけは目を見開き、任務を全うしている。


 そのとき、パネルを見つめる鋭い眼光が、新たな光点を発見した。


「ん?」


 オペレーターは不思議に思い、首を傾げる。


 しかし、カウントが止まることはない。


 5、4、3、2、1……


「着弾しちゃう!」


 花鳥博士は顔を両手で覆い、しゃがみ込んだ。


 ゼロ……


 無常にも、目の前に表示されているカウンターは、終わりの刻を告げた。


 しかし、ゼロと同時に聞こえてきたのは外界からの轟音ではなく、スピーカー越しのマッキーの声だった。


「ロケットパーンチッ!」


「……」


 花鳥博士たちは、何が起こっているのか、理解できないでいる。


「ICBM消失しました」


 オペレーターが叫んだ。


「どういうことだ?」


 池主任は怪訝な顔をオペレーターに向けた。


「言葉の通りです。

 空の彼方に消えて行きました」


 ますます理解に苦しむ。


 そのとき、マッキーから連絡が入った。


「間に合ったようじゃの」


「どういうこと?

 カウントはゼロを示していたはずよ」


「確かにのう。

 先ほどのワシの声は、秘密兵器がICBMを吹き飛ばした瞬間のものじゃ」


「新兵器って……

 それに、確かに時間切れだったはず」


「風月よ、何か忘れておらんか?

 音声だけの回線ならば、ほんの0.07秒ほどのタイムラグじゃが、今、お主のところと繋げておる回線は、動画処理もしておる。

 そこには2秒ほどのタイムラグがあるのじゃ。

 すなわち、ワシが叫んだのは、実際のところ着弾2秒前じゃ」


「あっ」


「わかったようじゃの」


「でも、いったいどうやって?」


「だからワシのとっておきじゃ」


 ――着弾予定の20秒前……


 戦線を一旦退いていたマッキーも、状況を把握していた。


「念のため、準備しておいて良かったわい。

 1基だけならば、対応可能じゃ。

 ワシのとっておきをお見舞いしてくれる!

 衛星【エルピス】よ頼んだぞ」


 マッキーは急いで日本上空を飛ぶ、独自開発した人工衛星に信号を送った。


 それは、宇宙デブリを再利用した、人工衛星型の迎撃システムである。


 瞬時に【エルピス】はボディに取り付けられたアームを伸ばし、その鉄拳をICBMに向けた。


 軌道計算はできている。


 希望の拳が光の矢となり飛び出した。


 マッハ30……


 信じられないスピードで大気圏に突入する。


 先端は青白く、後方には赤橙色の尾が燃え盛る。


 着弾3秒前、ついにICBMに追いついた。


 着弾2秒前、マッキーは叫ぶ。


「ロケットパーンチッ!」


 派手に叫ぶも、殴り飛ばしては地上が大惨事になる。


 拳は開かれ、ICBMを掴むと、一気に上空へ反転、宇宙の彼方へ消えていった。


 三日後、月に新たなクレーターが生成されたとかしなかったとか。


 ――私たちは安堵のため息を漏らした。


「ふう〜。

 あんた、そんな裏技を持ってたんならさっさと言いなさいよね」


 先ほどとは打って変わり、いつものトーンで私は悪態をついてやった。


「1回こっきりの、奥の手じゃったからな。

 さすがに3基は無理じゃったのでな」


「それはそうと、うちの迎撃システムはなんであんなことになったのよ。

 プロメテウスに乗っ取られてるんじゃないの?

 調べはついてるんでしょ?」


「そう、そのことじゃが、その心配はない。

 あやつ、カーマン・ラインを超える前にマイクロ波で迎撃システムを狂わせよったのじゃ。

 仕組み的には北欧連邦が使ったのと同じじゃ。

 それから……

【I am known as Prometheus.】については心配するな。

 あれは単なる、文字だけの脅しじゃ。

 乗っ取られておるわけではない」


「それなら、ひとまずは安心だけど、あんな状態から、よくマイクロ波なんか打つことができたわね?」


「お主は知っておるじゃろう。

 30年ほど前に、とうにワシは研究ノートにまとめておったではないか」


「あっ!」


「じゃろ?」


「てことは、今回の迎撃失敗は、にっくきダニエル・チャン・リーに、あんたが研究成果を盗まれたからじゃないのよ!」


「そんなに怒るな。

 ちゃんとワシが迎撃したではないか」


「それってマッチポンプじゃないのよ!」


「まあまあ。

 風月よ、2秒遅れの喧嘩は後回しじゃ。

 ワシにはまだやらねばならぬことがあるでな」


 牧夫は急に声のトーンを一段下げた。


「もう一度行くのね」


「うむ。

 決着をつけねばな」


「……」


「……」


 何度目の別れになるのだろうか。


 私たちに、もう言葉はなかった。


【必ず戻ってくる】


 それが暗黙のルールに思えていたからだ。


 何も言わず、牧夫は単身エリア13に向かう。


 機体カメラの映像には、レンズ越しの太陽光が透き通った六角形となって整然と並び、静かに差し込んでいた。


 それは、まるで牧夫を祝福するかのような光だった。


 ――最終決戦……


「ここで決めねば火種が残る」


 ワシはある一点だけを目指す。


 厚い地盤の上からの攻撃は無意味である。


 狙うは、偵察隊が開けた緊急用のハッチである。


「あそこに、永松のジジイに用意してもらった、【個体認識付誘導弾】を打ち込むのじゃ!」


 プロメテウスの個体周波数と位置は、偵察隊の隊長からの最後の通信時にオクタゴンが受け取っている。


 ただし、この機体に装備されているのはプロトタイプである。


「ギリギリまで近づかねば、認識できん。

 果たして、プロメテウスはどこまで接近を許してくれるかのう……」


 案の定、マッキーの機体が射程に入るや否や、プロメテウスはなりふり構わず、ありとあらゆる攻撃を仕掛けてきた。


 巧みな操縦でマッキーはミサイルをかわす。


 ありったけのデコイ(囮)もまき散らすが、圧倒的なミサイルの数には焼け石に水である。


 一発の地対空ミサイルが垂直尾翼を破壊した。


 機体はバランスを崩すも、マッキーは急上昇して難を逃れた。


「この手しかなかろう」


 機体はふらつきながらも、さらに上昇する。


 ――必ず戻ってくる……


「風月よすまぬ。

 今回ばかりは、約束を守れそうにない……」


 ワシは覚悟を決め、操縦桿をグッと押し込んだ。


 遥か上空で機体は反転急降下をし始めた。


「軌道確定。

 ターゲットロック完了」


 距離50km、40、30、20……


 被弾し、とうに両の翼はもげている。


「まだじゃ〜!

 あと少し持ち堪えてくれ〜!」


 残り10km。


 目標まであと3秒足らず。


 ワシはコンマ数秒のカウントダウンを始める。


「もっとじゃ!

 もっと近づくのじゃ!

 うおぉ〜っ!」


 距離50m。


 全ての時間が止まったかのように、周囲の色が消えた。


「今じゃ!」


 マッキーは渾身の一発を放つ。


 その瞬間、眼の前は再び色を取り戻す。


 【個体認識付誘導弾】は、見事にエリア13に吸い込まれていった。


 マッキーは機体と共に地面に叩きつけられ、黒煙を上げた。


 無惨にも、辺りには先ほどまでマッキーが搭乗していた機体の残骸が散らばっていた。


「牧夫〜っ!」


 花鳥博士の叫び声が響き渡る部屋のモニターには、緊急用のハッチから、勢いよく炎を上げるエリア13の姿があった。


「いや〜っ!」


 花鳥博士の声は、もう届くことはなかった。

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