第18話 FUJIHARU
「これは憶測じゃが、プロメテウスの思考にはリー博士の記憶が取り込まれておるのかもな」
「リー博士って……
15年前、プロメテウスに廃棄処分が下されたと同時に失踪した、ダニエル・チャン・リーのこと?」
私に嫌な思い出が蘇る。
牧夫が表舞台を去ったあと、しつこくつきまとってきた男の名前だ。
牧夫を悪者に仕立て上げ、全てを奪い取ったことも知ってる。
私は100倍に濃縮した青汁を、無理やり飲まされたような顔をした。
「おいおい、風月よ、怖い顔になっとるぞ」
「嫌な名前を聞いたからね。
で、取り込まれたという根拠は?」
「うむ。
自分で言うのもなんじゃが、コピーのワシは、本体そのものの性格をしておるじゃろ?」
「そうね。
バカそのものよね」
「なにを言うか!
藤春牧夫のIQは600じゃぞ」
「それでも、バカはバカでしょうに」
「グググ……
おのれ、風月。
覚えておれ!
まあ、よい。
それはそれとして、つまりはそういうことじゃ」
「慢心ゆえの油断てことね」
「うむ。
自縄自縛というやつじゃ」
「確かに、説明がつくわね」
「ここで、悪いお知らせなんじゃが、どうやら、どうしようもなくなったプロメテウスは核をつかうつもりのようじゃ」
「えっ!?
やばいじゃないのよ。
でも、どうしてアンタにわかったの?」
「ワシの情報網を甘く見るでない。
宙にもちゃんと目はついておる。
以前、宇宙デブリ化した人工衛星を回収して、ちょいちょいとカスタマイズしたんじゃ」
「アンタって、どこまで手を広げてんのよ」
「科学はロマンじゃからな。
それよりも、ことは一刻を争うやばい状況なんじゃよ。
すでにICBMのハッチが開かれ、発射シーケンスに入っておる」
その言葉に、私も池主任も息を呑んだ。
「今回はスフィンクスのときのように、説得の必要はない。
破壊するのみじゃ」
「それについては、すでにオクタゴンは指示を出したとのこと。
まもなくエリア13に総攻撃が行われると思います」
池主任からはすでに作戦が始まっていることを聞かされる。
「池くんよ、ワシが頼んでいたものは準備できておるか?」
「はい。
取り付け完了の報告は受けております」
「さすが、永松のじいさんじゃのう。
極秘に開発されたばかりのものを、簡単に提供できるとは」
「私からすれば、あなたも似たようなものですよ。
よくあの情報を掴んでいましたね」
「まあ、ワシにかかれば国家機密など、裸同然じゃ。
それではそろそろ現地に向かうとしよう」
「さっきから、話が見えないんだけど、国家機密ってなによ。
今さら、国家機密の塊みたいなアンタから聞かされたって、驚きはしないけど。
それに、現地に向かうったって、1万kmもあるのよ?
間に合うわけないじゃない」
「甘いぞ風月よ。
ワシにはとっておきの戦闘機があるんじゃ。
すでに、立川飛行場にスタンバイしておる。
飛行速度は驚異のMAXマッハ13。
奇しくも、戦地と同じ数字じゃ。
そのボディはワシと同じドラニュームZでできておるのじゃ。
飛行中にプラズマ現象が起きようが、びくともせん」
「ほんと、アンタはバカなんだか、天才なんだか……」
「褒め言葉と捉えておく。
それでは行ってくる!」
「牧夫!」
私は何度、この人の背中を見送ればいいんだろう。
【行かないで】
たったの五文字が口に出ない。
気持ちとは裏腹に、私の口からは軽口しか出て来なかった。
「……」
「なんじゃ?」
「待ってんのも面倒くさいんだから、さっさと仕事済ませて、明日までにちゃんと帰って来るのよ!」
「合点承知の助!」
牧夫は急いで部屋を飛び出した。
「死なないで……」
私は彼の背中を見送りながら、小さく呟くことしかできなかった。
建物を出たマッキーは、路地裏で四輪メカに変形する。
クイーン がシャン がシャン
ギアの擦れる音が響き、油の匂いが辺りに広がる。
「よし、高速道路を使えば5分もすれば、立川飛行場じゃ」
後に、首都高を猛スピードで駆け抜ける猫型の物体が目撃された――という噂が、SNSで拡散されていた。
――50分後、スクランブル機から、オクタゴンに通信が入った。
「Octagon, an unidentified craft is approaching our unit at extreme speed.」
(オクタゴン、未確認機が我が部隊に超高速で接近中)
間に合ったようだな。
オクタゴンの司令はニヤリと笑った。
「That's a friendly.
Japan confirms.
Verify IFF.」
(それは味方だ。
先ほど日本から連絡があった。
IFF(敵味方識別装置)を確認せよ)
「Roger!」
(了解!)
(あれが、作戦会議のときに指令が言っていた秘密兵器か……
なんて速さなんだ)
パイロットはパネルを確認した。
レーダー画面に【Friendly(味方)】マークが点灯している。
ピッ
同時に短い電子音が鳴る。
「Macky here!(こちらマッキー!)
間に合ったぞい!
Backup’s here.(援軍到着)じゃあ!
ヒャッホホ〜イ」
なにやら騒がしいのがやって来た。
空軍パイロットたちはヘルメットの下で怪訝な顔をした。
その刹那、勢い余ってマッキーは編隊を追い越してしまう。
わずか5秒の出来事。
マッキーは20km先へ飛んで行った。
「あわわわわ。
減速じゃ!
通常速度に切り替えねば!」
マッキーは減速、反転し、改めて編隊の最後尾に機体をつけた。
「We are commencing the operation.
We will provide full support to Macky.
Mission name……FUJIHARU!」
(作戦を開始する。
我々はマッキーの全面支援に回る。
ミッション名……FUJIHARU!)
隊長機の合図で、編隊はマッキーを囲むようなフォーメーションをとった。
目の前にはエリア13の滑走路が近づいてきた。
そのとき、プロメテウスの命令により、エリア13のミサイルランチャーが、一斉に火を吹いた。




