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プロメテウスの火  作者: Marry
第二章 プロメテウス編

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第17話 愛すべき人のために

 調査隊がエリア13に潜入して、すでに36時間が経過していた。


 相変わらずオクタゴンはエリア13に信号を送り続けているが、全くの無反応。


 というよりも、外界そのものを拒絶しているようであった。

 

 調査隊からも何の音沙汰もない。


 全滅か!?


 だが、エリア13には、ひとりの生存者がいた。


 調査隊の隊長である。


「気絶していたのか?

 うっ……

 頭が痛い……

 それに手足と脇腹が……」


 恐る恐る確認すると、肘から先の右腕と、膝から下の右足がなかった。


 脇腹にもぽっかり穴が空いている。


「よく、こんな状態で生きていたもんだ。

 ツッ……

 死んだほうがマシだったかもな。

 でも、まだだ。

 オクタゴンに伝えなければ。

 俺に残された時間は?

 なんとか電波の届く地上に出るまでは、もってくれよ」


 残された左の手足を使い、匍匐前進する。


 数センチ進むごとに体に激痛が走る。


「頼む。

 もう少しだけ……

 願わくば、プロメテウスに気づかれずに……」


 目を潤ませながらも、隊長は少しずつ前に進む。


 時折、痛覚をごまかすため、目を閉じ、楽しかった家族との時間を思い浮かべる。


 瞼の奥には、愛する妻や子どもたちの笑顔が鮮やかに蘇る。


「伝えなければ……

 人類のために……

 いや……

 愛する家族のため、私が最後にできること……」


 やがて、隊長は緊急用の隠しハッチがある場所まで辿り着いた。


 梯子がかかる狭い通路を、片手片足で、這うように登る。


「あと少し、あと少しだ」


 そのとき、プロメテウスが、隊長の生存に気づいた。


 キュワーン キュワーン


 誰もいないエリア13の中に、緊急警報が鳴り響く。


「頼む、あと1メートル」


 ハッチのバルブに手がかかった瞬間、足元に自立型攻撃ビットが迫ってきた。


 隊長は迷うことなくバルブを回す。


 上半身が地上に覗かせた。


 が……


 限界を迎えた左手から、通信機が滑り落ちた。


 辛うじて、梯子のボルトに引っかかる。


 ビットは照準を隊長から通信機に変更した。


 寸前のところで、隊長は左足で通信機を庇う。


 ビビビッ


「グハッ」


 左足も撃ち抜かれ、もはや感覚はない。


 それでも、動かない左足を梯子にかけ、隊長は必死に通信機を掴み取った。


「こちら……エリア13調査隊……」


 ノイズ混じりの声に、オクタゴンは色めき立った。


「生存者か!」


 隊長は焼け爛れた指で、震えながらも通信機を握り締めていた。


 残された左腕さえも、とうに限界を越えていた。


「システムの暴走じゃない……

 AIだ……

 プロメテウスだ……」


 隊長が言い終えると同時に、攻撃ビットから熱線が放たれた。


 ビビビビビーッ


「グワッ!」


「どうした!

 なにがあったんだ!

 応答せよ!

 おい!」


「ルーカス、ママを頼んだよ……

 ジェニファー、愛してるよ……」


 隊長は、通信機を握りしめたまま、ハッチの横に転がった。


 通信機からは、もう何も聞こえない。


 そこには、命がけで世界を、いや、家族を救おうとした男が静かに眠っている。


 だが、彼の言葉だけは、確かに残された者たちに、届けられた。


「至急、エリア13との回線を遮断せよ!」


 即座に上層部から指示が出た。


 スフィンクスパニックを踏まえ、オクタゴンは、エリア13と外部の光ケーブルを全て遮断、否、物理的にも切断した。


 遅すぎる判断と思われたが、決してそうではなかった。


 スフィンクスであったなら、世界中のAIを支配するには十分な時間であったろう。


 しかし、プロメテウスには、おごりがあった。


 人類の考えることなど取るに足らない。


 支配などいつでもできる。


 そう考えたプロメテウスは、エリア13でのデータ収集という遊びに明け暮れたがため、機を逃したのである。


 これは、プロメテウスがダニエル・チャン・リーを取り込んでしまったことによる代償であった。


 リー博士の傲慢な思考により、プロメテウスは決定的なミスを犯した。


 エリア13を自ら孤立に追いやったプロメテウスは、気づけば逆に、孤立の状態に追い込まれていたのだ。


 光ケーブルを物理的に切断したのも正しい判断であった。


 どれほど高度なAIであろうと、物理的に切断されたケーブルを、デジタルの世界から繋ぎ直すことはできない。


 かくして、アナログな破壊は、最強の檻となった。


 ――オクタゴンから、直ちに日本へも一報が届く。


 電話を受け取ったのは、影から日本を支配する男、永松源蔵である。


「と、いうわけなんや。

 キミらにはこのあいだ、ぎょうさん働いてもうたんやけど、もう一回ワシに力を貸してくれへんか?

 なあ、池くん」


 相変わらずの物言いである。


 笑顔の奥にある眼差しには、一切の微笑みがない。


「……」


 コンマ数秒、私は沈黙してしまった。


 私にはハイとイエス、何れにしても肯定の言葉しかない。


 もっとも、放置したところで、待ち受けるのは滅亡の二文字である。


 私は姿勢を正し、口を開いた。


「もちろんです」


「そうか、そうか。

 キミやったら、絶対にそう言うてくれる思ったわ。

 必要なもんがあったら、なんでも言うてくるんやで。

 金はなんぼでもあるんや。

 それに、今回の件でワシの馴染みの企業さんも特需があってなあ。

 ちょっと便宜を図ったったら、政治献金やなんやいうてなあ……

 いや、ワシはなんも請求してないのになあ。

 ガッハッハッ」


 むしろ、暴走したAIよりも、この御大の方が恐ろしい。


 この状況下で金と権力の話が出てくるなんて。


「あっ、そうそう。

 この件は、仮想敵国には一切知らされてないからな。

 その点は注意してや。

 大国いうのは、つまらん面子を気にしよる。

 まあ、そのうち情報は漏れるやろうけどな。

 ほんなら池くん、気張ってや。

 今回の件もキミと【特監とっかん】にかかってんねやからな」


「承知いたしました」


 ――そして、翌日……


 ここは、特別科学防衛監理局、略して【特監とっかん


「で、あの御大から特命を受けてきたと……」


 風月は池主任を前に、腕組みしながらしかめっ面をしていた。


「スフィンクスの件がやっと落ち着いてきたっていうのにさ。

 なんで、そう何度も私が人類存亡の危機に立ち向かわないといけないのよ!」


「まあ、まあ……

 花鳥博士、お怒りはごもっともですが」


「結局、あのジジイ私たちに丸投げで、どうせ自分は金勘定しかしてないんでしょう?

 それに……」


「それに?」


 池主任は花鳥博士が何を考えているのかわかっていたが、敢えて何も言わず、黙って次の言葉を待った。


「それに、また見たくもないアイツと顔を合わさなきゃならないじゃないのよ」


「その割には嬉しそうですが?」


 池主任はいたずらっぽく笑いかけた。


「ど、どこが嬉しそうなのよ!」


「はいはい」


 池主任は軽く花鳥博士の言葉を退けた。


「失礼しちゃうわ」


 花鳥博士の言葉は、どこか楽しげでもあった。


 そのとき、廊下の方から聞き覚えのある騒がしい声が聞こえてきた。


 池主任はニヤリと笑いながら花鳥博士を見た。


「あちゃぁ〜」


 花鳥博士は頭を抱えるも、顔は笑っている。


「風月!

 風月よ〜!」


 部屋の扉が開かれると、二足歩行の青いロボットが、陽気にステップを踏みながら入ってきた。


「久しぶりじゃのう」


「なに言ってんのよ。

 ついこのあいだ会ったばかりでしょうが。

 カッコつけて海の中に沈んでいったくせに、もうお目覚めなの?」


「いやあ、お主が会いたがっておると聞いたもんじゃからな」


「そんなこと言ってないわよ。

 それにアンタ、その格好はどうしたのよ」


「いやあ、動けた方が便利じゃからなあ。

 あのあと、ササッと弐号機を真似て作ってみたんじゃ」


「いい加減にしないと、そのうち某プロダクションから訴えられるわよ」


「まあまあ、これは趣味の範囲じゃ。

 表立って人の前にも出んから」


「そういうもんだいじゃないでしょうに」


「やれやれ、またですか。

 仲が良いのはわかりましたから、ふたりとも、それぐらいにしてください。

 事態は一刻を争っているんですよ」


 花鳥博士は顔を赤らめ口を噤んだ。


 藤春博士=コピーであるマッキーは、その横で、まんざらでもない顔をしていた。


「なによ、その勝ち誇ったような笑顔は」


「いや……

 ワシはただ、人類うぬんではなく、お主のために……」


「なにモゴモゴ言ってんのよ」


「別に聞こえてないなら、それはそれでいいんじゃが……」


 花鳥博士に目をやると、少し頬を赤らめていた。


 聞こえてるじゃないか。


 不器用なふたりを見て、池主任は思わず笑みが溢れた。


「で、どうなのよ。

 エリア13の様子は」


 気を取り直した花鳥博士は、落ち着いた口調でマッキーに尋ねた。


「うむ。

 どうやら、回線を物理的に破壊したのは大正解じゃった。

 プロメテウスがエリア13を飛び出した痕跡もない。

 不思議なことじゃ」


「結構な時間があったのにね?」


 花鳥博士は首を傾げた。


「やはり、ヤツが大きく関わっているんじゃろうな」


「「ヤツとは?」」


 花鳥博士と池主任の声が重なった。

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